355 見慣れた壁
移動中の暇な時間を使って、俺が知る
コツとはもちろん俺が死ぬ気で学んだ、周囲に漂う風属性のマナを感知して活用する方法だ。
周囲のマナをうまく使えば宙に浮く際に消費する魔力も減るし安定感も増す。これは
ただし、術者のもともとの魔力の出力の問題もあるので、
とはいえ魔法を使う際の出力は高いに越したことはない。そこで
以前知ったことだが、ポータルストーンを作る時にひたすら火属性のマナの供給をした結果、セリーヌの火魔法の出力は以前に比べてずっと上がったようだった。
なので同じことを風属性のマナでやれば、きっと町へと戻る数日間でも
ニコラに言われるまでもなく、それはたしかにそのとおりだと思うんだけど……。
……でもね、やっぱり一つ屋根の下で寝泊まりすることを考えるとね。いつぞやセリーヌに襲われかけた夜のことを思い出してしまうんだよね。
あの夜のセリーヌはなんともギリギリの状態だった。どうやら魔力供給をした日には危険度が増すようだし、あの出来事を繰り返すわけにはいかないだろう。
なにより魔力供給を提案している時のニコラの顔が、いかにもエロいハプニングを期待してそうだったからね。そういうことで、魔力供給は最後の手段として保留にした。
――それから数日間、俺からコツを教わったセリーヌは移動中だけではなく、寝る間も惜しむ勢いで真剣に訓練に明け暮れた。それはいつも余裕の態度を崩さないお姉さんからはかけ離れた姿に見えた。
そういえば母親のエクレインも、セリーヌが村では努力家だったみたいなことを言ってたっけな。新たな魔法を覚えるにあたり、その当時と同じ姿を俺が垣間見たということなのだろう。
セリーヌは
そうして訓練を重ねた結果、セリーヌはファティアの町到着予定日の前日に
ちなみにセリーヌが
その日の夜は最後の宿泊ということで、コンテナハウスの中で夜遅くまでいろんな話をしながら過ごし、ニコラのお願いで三人で川の字になって寝ることになった。
お泊りの最後の思い出に、と言われると断るのも忍びなかったので俺も了承した。真ん中がセリーヌである。
なんだかセリーヌの視線をやたらと感じたけれど、久々に夜ふかしをした子供の身体は睡眠を欲していたらしく、あっという間に寝てしまった。もちろんニコラが期待していたような事案は起こらなかったけどね。
きっとあの夜は不運が重なった事故だったのだろうし、これからはもう少しセリーヌを信用しないといけないなと思った。
◇◇◇
翌日の昼過ぎのことだった。俺に馬車の手綱を任せて空高く浮かんでいたセリーヌが突然大声を上げる。
「マルク、ニコラちゃん! 町が見えてきたわよ!」
その声に馬車の中のニコラが勢いよく垂れ幕を開き、御者台まで飛び出てきた。
「ほんとっ!? セリーヌお姉ちゃん!」
「本当よう!」
『ほら、ほらほらお兄ちゃん。もっと早く馬を走らせてください! ほらほらほらホラホラボラボラボラボラボラーレ・ヴィーア!(飛んでいきな)』
俺の背中をぐいぐい押しながら、ニコラがキメ顔で言った。まだ結構余裕あるなコイツ……。だが俺でもさすがに馬車ごとは飛ばせない。
『ちょっと落ち着きなよ。もうすぐ着くんだから、あと少しくらい我慢しな』
『そうなんですけど~。ぐぬぬぬぬぬ……!』
御者台の上に立ち、そわそわと俺たちからはまだ見えない町の方を凝視するニコラだが、その気持ちは俺にもわからなくもない。でもここまで大切に乗ってきた高級馬車に無理をさせるのも良くないしな。事故なく最後まで安全に運転するのだ。
そうしてニコラをなだめながらしばらく進むと、俺の目にも町を囲う壁が見えてきた。領都ほど高くもないし、立派でもない。これといった特徴もない平凡な外壁だ。
でも生まれてからずっと見続けていたのだから、間違いない。あれは生まれ故郷ファティアの町の外壁――そう思った瞬間、俺まで馬を急かしたい衝動に襲われた。けれどその気持ちをぐっと抑え、一度大きく息を吐いて前を見据える。
気がつけば、いつの間にか御者台に降りてきていたセリーヌが俺とニコラの肩をぎゅっと抱きしめてささやく。
「私の見込みが甘かったせいで、本当に待たせたわね。ごめんなさい」
セリーヌはこれまで何度も俺たちや共鳴石で両親にも謝っていたし、そもそも長期滞在は彼女のポータルストーンを作ってあげたかった俺のわがままだ。それでもセリーヌは俺たちの保護者として、気にしてしまうのは仕方ないのかもしれない。でもーー
「ううん、僕はセリーヌに感謝してるよ。今日まで本当にありがとう」
ファティアの町にいては絶対に体験できない経験ができた。想定外のこともあったけれど、終わってみれば実りの多い旅だったといえるだろう。
「ニコラも楽しかったよ!」
『外泊のお陰でエロエロなセリーヌもたくさん見れましたしね。そこに後悔はありませんよ』
そんな平常運転のニコラではあるけれど、さっきから町の方角に視線が釘付けだ。そんなニコラを見てセリーヌが微笑む。
「ふふっ、早くお家に帰れるように馬車の中を片付けておかないとね。私が馬を動かしてるから、二人は馬車の中を整理しておいてくれる?」
「はーい!」
俺とニコラは声を合わせて返事をすると、馬車の中へと駆け込んだ。こうして俺たちは数ヶ月ぶりとなる家族や友人のいる故郷への帰還を果たしたのだった。
――後書き――
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