224 シュルトリア自然公園
「おー、遅れてすまんかったな。色々と立て込んでて……って、なんじゃこりゃあああああああ!?」
一度帰宅した後、随分と遅れてやってきたトリスは入り口で立ち止まると大声を上げた。しかしトリスが驚くのも無理はない。彼が立ち去る前に比べると、この土地は生まれ変わったとさえ言える。
まずは整地された土地の手前側。ここはトリスの注文通り、実験場がまるまる入る広々としたグラウンドになった。ここで子供たちは球遊びするなり駆けっこするなり自由に遊べることだろう。
地面を均すところまでは手が回らなかったけれど、使われていくうちに踏み固められていくだろうし、しばらく様子を見た後で気になる部分は土魔法で調整する予定だ。
グラウンドの周辺には定番となっている動物の石像を設置。今回の石像には馬や亀の他に、旅の間に色んな意味でお世話になったテンタクルスやストーンリザードも制作した。特にストーンリザードは本物の肌の質感が石に似ていることもあり、まるで本物と見紛うばかりの出来栄えだ。
石像の他にも定番のシーソーや滑り台、他にはブランコ、
できることなら前世では色々あって姿を消したと言われる回転式ジャングルジムも異世界で復活させてあげたかったけれど、俺の知識と技術では無理だった。
「ふわああああ、すごいねえ~」
俺が説明を続けていると、トリスと一緒にやってきていたシーニャが口を大きく開けながら周囲を見渡していた。トリスが戻ってくるのが遅かったのは、きっと彼を訪ねてきたシーニャに構っていたからだろう。
「これ、マルクくんが一人でやったの?」
「ううん違うよ。そこにいるエステルとだよ」
俺の指差す方向にはエステルがぐったりと座り込んでいた。今の彼女はかろうじて息をしているのが分かる程度で、身じろぎ一つすらしていない。
風魔法を駆使して根っこの切断を手伝ってくれていたのだけれど、数が数だけに魔力の消耗が激しかったらしい。
それでも最後まで手伝うと言って聞かなかったので、望み通りにやらせてあげたところ、最後の一本を処理してなんとか入り口まで戻ってきた後にぐったりと座り込んだまま動かなくなってしまった。
「ねえねえマルクくん。遊んできてもいーい?」
シーニャがぴょんぴょんと体を揺らしながら俺に尋ねた。ふわふわの髪の毛も一緒に揺れて、見ているだけでなんとも和む。
「もちろんいいよ。地面はまだでこぼこしているから気をつけてね」
「シーニャ、あの辺りは止めときなさい。高いと危ないしパンツが見えるとはしたないからな」
ジャングルジムや雲梯といった、高さのある遊具の一角をトリスが指差す。
「はーい、ひいおじいちゃま。それじゃマルクくん、行ってくるねー」
シーニャはそれに答えると、動物の石像に向かってとたとたと走って行った。今は下から覗くような悪ガキはいないのにな。と思ってると、トリスがこちらを見てニヤリと笑いながら一言。
「フフン。マルク、愛らしいシーニャのパンツが覗けなくて残念だったな? ……それで向こうの方にあるのはなんだ?」
どうやら俺が悪ガキだったらしい。トリスのひ孫バカっぷりに軽くため息を吐きながら更に説明を続ける。
「えーと、向こうにあるのは憩いの広場みたいなものです」
グラウンドの奥には直径二十メートルほどの溜池と、その中央には噴水のようなオブジェを作り、その周辺には屋根付きのテーブルや椅子、それとベンチなんかを設置した。
今は突貫工事につき単なる溜池だが、手が空いたときにでも水路を通して川から水を引き、トリスには噴水から水を吹き上げさせるような魔道具と夜間にライトアップできるような照明の魔道具を作ってもらい、見た目で楽しんでもらえる設備にしようと思っている。
実はこの村、やたらと恋愛を推奨しているわりにデートスポットは非常に少ない。気ままに暮らしている村人が多いが故に、そういったものが人工的に作られることがないのだろう。
その上絶好のデートスポットとも言えるポータルクリスタルは旅立ちを象徴しているとのことで、あそこでデートをしたカップルは別れるといったジンクスが存在するらしく、訪れるカップルは皆無だ。
お陰で気兼ねなく無人のポータルクリスタルでセリーヌに魔力供給もできるのだけれど、その感謝の意を込めてちょっとしたデートスポットをこちらに作ってみたのだ。
ちなみに現在、村で一番人気のデートスポットは村の近くを流れる川の上流辺りだそうだ。
『涼しい川岸で愛を語らいながら、盛り上がってきたら森の中に入ってなんやかんやと楽しむのよ。マルク君も早くエステルを連れて行ってあげてね。あっ、でも上流は他のカップルともかち合うし、あちこちから声が聞こえるからさすがに初めては下流の辺りがオススメよ。物足りなくなってきたら上流にステップアップするといいわ――』
と、スティナが言っていた。ほんと八歳児に聞かせる内容じゃないと思います。
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