121 魂の力

「ただいま、お義母さん」


 カイを先頭に村長宅へと戻ってきた。どうやら既に村長もサンミナパパも宴会準備で出払っているようで、一人で留守番していたサンミナママが出迎えてくれた。


「おかえりなさい。ふふっ、マルクちゃん聞いたわよ~。すごいことをやってのけたらしいじゃない。後で詳しく教えてね。……あら、メルミナはもうおねむなのね。今日はこっちで寝させましょ」


「そうですね、僕もこれから宴会の手伝いに行かなきゃいけないし……。お願いします」


 カイは背中のメルミナをそっとサンミナママに手渡す。


「今日は私は留守番するから、お手伝いの後はしっかり楽しんでらっしゃい」


「いや、僕も後でマルク君を呼びに戻ってきますから、その時に交代で……」


「いいのよ。お話は後からでも聞けるし、私は広場でお酒を飲むよりも……。マルクちゃん、前の約束は覚えてるわよね?」


 サンミナママの目が鋭く光る。もちろん覚えていますとも。またお世話になったときはお風呂を作るって約束ですよね。


「う、うん。お風呂だよね。もちろん作るよ」


「ありがとう! 私はマルクちゃんたちが入った後に、ゆっくり入らせてもらうわね」


 そう言い残し、サンミナママは上機嫌でメルミナを寝室へと運んで行った。そしてその様子を見送ったカイは宴会の手伝いへと向かったのだった。



 ◇◇◇



 俺とニコラはサンミナママに一言告げると、お風呂小屋を作るため前回と同じく村長宅から少し離れた場所に移動した。


 まずは土魔法で二人が十分入れるサイズの浴槽を完成させる。前回もそうだったし、ニコラも混浴には特に異論はないようだ。この後は外壁を作るんだが――


「早く入りたいですし、今回くらいは私がお湯を張りましょう」


 ニコラが珍しく自主的に手伝いを始めた。今更だけどニコラもこれくらいの魔法は普通に使えるんだよな。


 今回くらいと言わずもっと手伝ってくれればいいのにと思わなくもないが、俺がそれなりに魔法が得意だと自信が持てるのも、ニコラにこき使われた結果のような気がするし、なんとも微妙なところだ。


 ニコラがお湯を張ってる間に外壁を作り出す。今回も屋根は作らない。月見風呂だ。


 もう慣れたものであっさりとお風呂小屋が完成したので、最後の仕上げに浴槽にポーションを投入する。今夜は宴会らしいし、こっちもお祝いらしくいつものE級ポーションの他にD級ポーションも1個投入しよう。


「うし、完成っと。それじゃあ入るよー」


 俺の呼びかけにニコラが頷き、二人で同時に服を脱ぎ始める。服を脱衣カゴに投げ入れると、桶でお湯を軽く浴び二人同時にドボンと湯船に浸かった。珍しく双子さながらのシンクロ率だったように思える。


 ニコラが開口一番。


「ぬっはー。疲れが癒やされますねえ」


「いや、お前なにもしてないよね?」


 今日の移動中はセリーヌの抱きまくらになっていたし、村に着いてからはずっとセリーヌの尻に埋もれていた気がする。


「なに言ってるんですか。今日もセリーヌのお尻の安全を守りましたよ」


「そんな自宅を警備してる人みたいな言い分が通用すると思うなよ」


 俺が呆れてニコラの方を見ると――あれ?


「お前『BDでは消えますミステリアスライト』使うのは止めたの?」


 隠すことで希少価値がどうのって言ってたのにな。するとニコラは形の良い眉を寄せ怪訝な顔をする。


「なに言ってるんですか? 今もしっかりと発動中です。ついに妹の乳首見たさに見えないものが見えるようになったんですか?」


 ニコラはそう言うが、普通にまな板に薄ピンク色のものが乗って見えるしなあ。


「今発動してるの? うーん、確かに何だかマナの流れは見えるけど……」


 俺はニコラの胸を凝視する。別にニコラの胸に興味は無いが、光魔法が効果を発揮していないことには興味がある。集中するとたしかにマナが胸を覆うように動いているのは分かるんだが……。


「あっ!」


 ニコラが突然何かに気付いたように声を上げた。


「……理由が分かりました。おそらくお兄ちゃんはヌシを倒した影響で、今まで発動させていた『BDでは消えますミステリアスライト』くらいでは簡単に見破ってしまうくらいの力を得たのでしょう」


「相手の魔法に対する耐性が強まったってこと?」


「そうです。どうやら今まで以上にマナを込めないと、お兄ちゃんには無効化されてしまうようです。全くお兄ちゃんの性への執着心には呆れますね」


 ニコラは俺に濡れ衣を着せるとやれやれと首を振り、いきなり湯船の中で立ち上がった。


「ムーン◯リズムパワーメイクアァァァッップ!」


 そしてどこかで聞いたことのあるような呪文を唱えると、突然ニコラの全身が虹色に輝いた。うおっまぶしっ!


 あまりの眩しさに一瞬目を閉じると、次の瞬間には以前のように大事な部分がボカされたニコラが横ピースをしながら立っていた。


「どや?」


「うん、見えなくなったよ」


 俺の答えにニコラは満足げに頷くと、再び体を湯船に浸からせた。


「ふう、とんだラッキースケベでしたね。まあヌシを倒したご褒美として、許してあげましょう」


「そうかい、ありがとうよ」


 俺はニコラから視線を外し、肩まで湯船に浸かると月を見上げる。すると思わずため息が漏れた。


「はぁ~……」


 頑張ってヌシを倒して魂の力とやらを得た。俺の力が少し増したらしい。


 そしてその力を体感できた記念すべき最初のエピソードが、妹の胸のボカシを見破ることだったということが、なんだかとても悲しかった。

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