99 追加二名様ご案内
まだ風呂でのぼせているわけじゃないとは思うが、少し気を付けたほうが良さそうだ。
俺はパメラの両脇に手を入れた。ふにゃりと弛緩していたパメラがビクンと硬直する。
「ふにゃああああ!?」
パメラが素っ頓狂な声を上げたが、そのまま背中を浴槽の壁にもたれさせる様に移動させた。
「とりあえず肩を出して浸かろうか」
「ふぇっ!? ……あっ、う、うん……」
なんだか涙目になっているパメラが答えた。早く引き上げようとしたせいでびっくりさせたようだ。すまんかった。
その直後、外から「なにか声が聞こえたけど」「あれ? こんな建物あったっけ?」と声が聞こえた。どうやら誰かが風呂小屋に気づいたようだ。
そして脱衣所の入り口からこちらをそーっと覗きにきたのは、俺の化粧直しをしてくれた巨乳お姉さんと、ニコラを膝枕していたロングヘアお姉さん。店で見た綺麗なドレスではなく私服姿だ。もう仕事が終わって帰るところだったんだろう。
「あっ、マルク君じゃな~い」
巨乳お姉さんが俺を見て手を振った。そしてロングヘアお姉さんは浴槽を見ると両手を口にあて、
「まぁ、お風呂だわ。どうしてこんなところに?」
「僕が作ったんだ」
「あら? お風呂ってそんなに簡単に作れるものだったかしら……」
ロングヘアお姉さんが首を傾げた。
そういえばカミラ母娘とエッダ以外の店のスタッフは、俺とニコラは厨房の手伝いに来たパメラの友達くらいにしか聞かされてないはずだ。
「ま、細かいことはいいじゃない! それよりもさ!」
巨乳お姉さんがロングヘアお姉さんの肩を抱く。そしてぼそぼそ小声で話し合うと互いに顔を合わせ頷いた。
「ねえねえ、私たち、もう仕事上がりなんだけど――」
「――いいよ! 一緒に入ろ!」
ニコラが食い気味に答えた。まぁそうなるよね。
「ありがと! それじゃさっそく!」
二人は脱衣所でいそいそと服を脱ぎだした。
「あっ、僕もうすぐ出るから、少し待ってて!」
すると巨乳お姉さんがこちらを見て不思議そうな顔をしながら、
「なに言ってるのよ、マルク君が作ったんでしょ? 追い出すつもりはないよ。……あっ、もしかして照れてるの? もう~かわいいねえ」
巨乳お姉さんがニヤニヤしながら俺をからかう。すいません、そういう照れ隠しじゃないんです。むしろ罪悪感というかなんというか。こういうのがニコラが言う俺のヘタレなところなんだろう。
そしてあっという間に服を脱ぎ捨てた二人は、さっそく浴槽に入ろうとした。――あっ、かけ湯を……、と思ったところでロングヘアお姉さんが待ったをかける。
「駄目よ、コレット。先にお湯を体にかけてからね」
「そうなの? エルメーナ」
俺はとっさに土魔法で桶を作り、ロングヘアお姉さんのエルメーナに手渡した。
その時にあまりに堂々としているので、思わず体をガン見してしまったんだが、その均整の取れた美しいプロポーションと透き通るような真っ白な肌に、思わず見とれてしまいそうになった。さすがその美しい身体こそが仕事の資本なだけはある。
「あら、ありがと。こういう桶でね、お湯を浴びて汗を落としてから入るのよ」
「へえー。よく知ってるね! もしかしてお風呂に入ったことがあるの?」
「ふふ、そうね」
「えー。どこの男に連れていってもらったのさ。そういえば最近あんたにご執心の若旦那がいたよね。あの人?」
「内緒」
何やらお湯を浴びながらガールズトークを始めた二人を見て、ふと我に返った。そうだよアレだよ。
『ニコラ、ニコラ!「
ニコラは二人から視線を外さないまま、
『あの魔法は児童限定なのです。大人の女性はBDで謎の光が消えてしまうために魔法の効果が発動しないのです。いやあ残念。本当に残念……!』
本当なのかどうか疑わしいが、これ以上言ったところで俺の希望に沿う結果にはならなさそうだ。仕方ない、せめて照明の光量を落とそう。俺は風呂場に展開していた光魔法の照明を調整してみた。
適度に明るかった風呂場がスウッと暗くなる。薄暗くなった風呂場はほのかに足元と顔が分かる程度で、湯船の中までは見通せない。
ニコラから文句が出るかと思ったが、相変わらずだらしない顔でお姉さん方を見つめている。おそらく暗視の効果のある魔法でも使っているんだろう。そんな魔法があるのかは知らないけれど、やりかねないのがニコラだ。
「あれ、暗くしちゃったの? マルク君照れ屋さんだねー。それじゃおじゃましまーす」
お姉さん方が風呂の中に入った。
「――うわ、うっそなにこれ。入った途端になんだかよく分からないけどすごいよ!」
「確かに……、私が入ったお風呂とは別物だわ……。どうしてかしら?」
「多分ポーションを入れてるからだと思うよ」
せっかくの風呂も気味悪がられると楽しめないと思ったので、正直に答えた。
「えっ、ポーションをここに? すごく勿体無いと思うんだけど、どういうのを入れたの?」
巨乳お姉さんのコレットが話しながら俺の近くに寄ってきた。
「E級10個だよ」
「E級10個!? ……もしかしてマルク君って、お金持ちのお坊ちゃんなの?」
「ううん、普通の宿屋の子供だよ。ポーションは自分で作ったんだ」
「なるほどー、ポーションって簡単に作れるもんなんだねえ。お店で売ってるのはボッタくってるのかな? 私は作れないけどさー」
お湯をパシャパシャと手ですくいながらコレットが呟く。俺の場合はたまたまセジリア草を栽培出来たお陰で無駄使いするほど増やせたけど、そうそう簡単なもんじゃなさそうな気がする。勘違いを訂正する気もないけどね。
とにかく光量を落としたことでようやく落ち着くことが出来た。しばらくはゆっくりと風呂を堪能しよう。
ちなみに化粧を落として入ったお姉さん方だが、全く誰なのか分からない風貌に……、なんてこともなく、しっかり美人さんのままだった。
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