53 セカード村
移動を再開して一時間ほど経っただろうか。遠くの方に水辺らしきものが見えてきた。この近辺に海はないと聞いているので池か湖だろうか。
水面が日の光を反射してキラキラと輝いている。綺麗だなあ。観光用の手漕ぎボートなんかが置いてあるなら是非乗ってみたいね。
そんなことを考えながら水辺を眺めていると隣から声がかかった。
「あれがセカード湖よ。あの湖で狩れる魔物の肉がセカード村のゲテモノなのよ」
相変わらず嫌そうな顔をして魔物肉について語るデリカ。魔物が生息しているなら、ボートで楽しく観覧というわけにはいかなさそうだ。残念。
その後のデリカの説明によると、その魔物肉はとにかく見た目がグロいらしく、よそから来た人は購入したがらないそうだ。村の住人は好んで食べているものの、世間には出回ってないシロモノらしい。デリカが特別嫌いというわけではなく、世間一般的にもグロい魔物なのか……。食べるのに少し勇気がいりそうだなあ。
そのまましばらく進むと、丸太を打ち込んだ木の柵に囲まれた家並みが見えてきた。あれがセカード村のようだ。湖のほとりに作られた村なんだな。
木の柵はあるが門番はいないので、馬車のまますんなりと村に入る。まずは村長さんのところに挨拶に行って、その後に仕事に取り掛かるらしい。
馬車が村に入ってくるのはそれなりに珍しいのか、近くで農作業をしている村人達がこちらを見ていたが、ゴーシュが手を振ると振り返し仕事に戻っていった。顔見知りのようだ。どうやらゴーシュはこの村でそれなりに知られているらしい。
「この村には何度も仕事に来てるからね」
デリカが少し自慢げに教えてくれた。
「普段は村の補修で使うような材木を売ったり、家の補修を請け負ったり、注文された家具を運んだり、そういう商売をしているのよ。それで村長さんにシーソーの話をしてみたら、購入するから是非とも設置してくれって頼まれたんだって」
たびたびゴーシュが訪れる必要があるのなら、本格的な大工はいない村なのかな。それはともかくわざわざ子供向けの遊具を購入するなんて、子供を大事にしている村長のようだ。
そういった話をしているうちに、他の家よりも一回り大きい家の前で馬車は止まった。どうやらここが村長の家なのだろう。
ゴーシュは勝手知ったるとばかりに村長宅に馬車を横付け、馬を簡素な馬小屋に入れた。中に他の馬は一頭もいなかったが綺麗に片付けられていたあたり、今日使われることを見越して事前に掃除していたんだろう。
そしてゴーシュが扉を叩く。
「どうもー。ゴーシュ工務店です。シーソーをお届けに参りました」
するとドタドタと足音が聞こえたかと思うとすごい勢いで扉が開き、中からつるっぱげの爺さんが出てきた。
「おおっ! ゴーシュさんいらっしゃい。今日はよろしく頼みますぞ!」
「ええ、任せてください。それと、今日はウチの子供の友達も連れて来てますんで、よろしくお願いします」
と 俺の肩をポンと叩いた。
「マルクです」
「ニコラです!」
「おおお! めんこい子供達じゃのう! どうじゃ、飴ちゃんいるか?」
「うん!」
俺が反応するよりも早くニコラが返事し、村長は家の奥に引っ込むと、すぐに飴玉を持って戻ってきた。そして三つの飴玉をニコラに手渡す。
おそらく子供三人分だと思われるが、ニコラはすばやくポッケに入れてニッコリと笑った。きっと俺とデリカの手元に飴玉は届かないだろう。
「ありがとー!」
「ええよええよ」
村長も釣られてデレデレとしまりのない顔をした後、ゴーシュに目線を戻す。
「それじゃあ、今日はこの子たちもここに泊まるんじゃな?」
「ええ、よろしく頼みます。マルク、ニコラ、俺とデリカはシーソーを設置してくるから村の中でも見学してきな。それで遅くても日が沈む前には村長さんのところに戻ってくるんだぞ。今日はこちらでお世話になるからな」
どうやら村長さん宅に泊まるようだ。村長さんからすれば急に二人増えたことになるけど大丈夫なのかな。
懸念が顔に出ていたのか、村長は俺の頭を撫でると
「なーに遠慮しとるんじゃ。子供二人くらい増えたって、どうってこともないわい! ほれ、外で遊んできなさい!」
バンバンと俺達の背中を押し出し外へ送り出した。ちょっと荒っぽいけど子供好きの爺さんなのは間違いなさそうだ。
村長が家に引っ込んだ後、ゴーシュが外の小屋から荷車を借りてシーソーの資材を積み直す。そして荷車をガラガラと引っ張るゴーシュと一緒に、まずは広場へ向かうことにした。
◇◇◇
村の中央付近にある広場に到着した。近くで子供たちが走り回って追いかけっこをしているが、遊具の様な物は特に無いみたいだ。ゴーシュは近くにいた村人と話をしている。どうやらシーソーをどこに設置すればいいか相談しているようだ。
しばらく話し込んだ後、戻ってきたゴーシュは広場のやや端の方に荷車を動かした。
「さて、ここに設置するぞー。デリカは手伝ってくれ。マルクとニコラはここで見ていてもいいが、せっかくだから村を見学してきたらどうだ?」
指南役ということでファティアの町で何度かシーソー設置を見たことはある。今更見ても面白みもないだろうし、村の中を見学させてもらおう。
と、その前に。
「ゴーシュおじさん。ここに滑り台作っていい?」
「ん? ああ、いいんじゃないか? 真ん中は村の集会に使ったりするそうだから、端なら問題ないだろう」
ゴーシュからも許可が出た。俺達を泊めてくれる村長に俺からも何かお礼がしたいし、町の公園の創造主として腕を振るいたいとウズウズしていたのだ。
周辺のスペースを確認した後、土魔法を発動させる。デザインはゾウさんの滑り台でいいだろう。この世界にゾウさんがいるかは知らないけど。
自らの魔力で生み出した土と元からある土を練り上げ土台を作り、滑り台の形を整えていく。ゾウさんの鼻が滑る側、しっぽを階段に作り上げる。足元はトンネルにして子供がくぐって遊べるようにしよう。
そして念入りに強度を固め、滑る側をツルツルに仕上げる。完成だ。
「おお……!」
周囲からざわめきが聞こえてきた。声の方を見ると、遠巻きにこちらを見ていたらしい村人達が滑り台を指さしてなにやら話をしている。
町の公園だともう何を作っていても奥様方は生暖かい目で見ているだけだったが、この村ではまだ若干の驚きと共に迎えられるようだ。ちょっとうれしい。
すると周囲の村人の中から一人、デリカよりも歳上に見える、日焼けした少女が駆け寄ってきた。
「ねえねえ少年、今の魔法だよね!? すごいね! 君たちファティアの町の子だよね!?」
お、おう……。魔法を見せて少しドヤ顔をしていたのは否めないが、ここまで食いつかれるとは思ってなかった。
「そ、そうだけど……。お姉さんは村の人だよね?」
「もちろん! ねえねえ、よかったらもっと話を聞かせてよ!」
ゴーシュとデリカの方を見ると、行ってこいとばかりに手を振られた。
「いいけど、お姉さんも村のこと教えてね」
「うん、いいよ! それじゃあ案内がてら、いろいろ聞かせてもらおうかな! こっちだよ!」
少女は手を振りながら俺たちに呼びかける。なんだか唐突だったけど、ちょうど良かったのかもしれない。現地の案内人にこの村を紹介してもらおうか。
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