50 東門
「いいわよー。ニコラも行くのよね?」
「うん、行く!」
「えっ、いいの?」
デリカたちと村に同行する件を母さんに相談すると、ゴブリンの森に行く時と同様にすんなりと承諾された。あまりにあっさりすぎるので、思わず聞き返してしまう。
「あら、どうしたの? 駄目って言って欲しかったのかしら?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど……」
俺がなんて言おうか考えてると母さんはしゃがみ込み、俺とニコラに目線を合わせる。
「私はね、二人を信じてるのよ~。だってこーんなにかしこいし、こーんなにかわいいんだもの!」
そう言い放つと俺とニコラを同時にギューッと抱きしめた。
「だからね……二年前に黙って薬草を取りに行ったことだって、ち~~~っとも怒ってないんだからね……!」
えっ、薬草ってコボルトの森の? うへっ、バレてた!? ……って母さんの抱きしめがどんどん強く……痛い痛い! どうやら今まで見逃されていたらしく、藪をつついて蛇を出してしまったようだ。痛い痛いイターイ!
そうしてしばらくの間、母さんのベアハッグを甘んじて受け入れていると、ふいに力を抜いて、俺達の頭に手をポンと乗せ、
「だから、楽しんでらっしゃい」
と、にっこりと微笑んだ。それを見て俺は、母さんの信頼に応えて目一杯楽しんで、そして無事に帰ってこよう。そう心に誓った。
◇◇◇
それからの三日間はまさに遠足前の心持ちで、何ともそわそわわくわくした気分で過ごした。こういう高ぶる気持ちは久しぶりかもしれない。
ギルに空き地の畑のことを任せたり、セリーヌに旅の準備に必要なものを聞いたり、それらを買い揃えたりとか、そういうことをしながら自分の中から生まれる熱をやり過ごしていた。
そして出発当日の朝、デリカとデリカパパでムキムキマッチョのゴーシュが家まで迎えに来た。母さんがゴーシュと挨拶を交わす。
「それじゃあ子供たちをよろしくお願いしますね」
「任せてください。帰ってきた後はウチの娘をよろしくお願いします。厳しく仕込んでやってください」
ゴーシュはデリカを見ながらニヤリと笑い、デリカは「お願いします!」と頭を下げた。今回はデリカのバイトの事前挨拶も兼ねているのだ。
「それはもう。しっかり働いてもらいますから!」
母さんが笑い返し、父さんが深く頷く。そんなやり取りをした後、俺たちは家を後にした。
「いってらっしゃい~」
ブンブンと手を振る母さんに手を振り返しながら家から離れる。ふと視線を感じ、宿の二階を見ると、窓からセリーヌがこちらに向かって小さく手を振ってくれていた。
今回の旅に使う馬車はレンタルらしい。シーソー用の資材は既に馬車に積み込んでいるそうだ。町を出る門はいつもの南門では無く、貸し馬車屋から近い東門からになる。
町中をしばらく進むと東門が見えた。この辺はジャックのグループの縄張りだったんだよなー。最近見ないけど元気なのかな。
「親分、ジャックってもう冒険者やってるんだよね?」
「お兄さんと組んで色々とやってるみたい。お兄さんのほうは最近D級に上がったって、教会学校でジャックの取り巻きが言ってたわ」
「へえ、D級ってすごいね」
F級は駆け出しでE級まではすんなり上がるらしいが、D級はそれなりに信用と実績を積み上げないとなれないらしく、冒険者には万年E級なんて掃いて捨てるほどいるとセリーヌが言っていた。その後に「私はC級だけどね!」ってドヤ顔してたけど。
「親分お姉ちゃん、あの建物なあに?」
ニコラが四角張った三階建ての建物を指差す。
「ああ、あれは商人ギルドよ。それとニコラ、親分かお姉ちゃんどっちかにしない?」
「じゃあ親分で!」
「あ、そう……」
デリカは親分呼びが解消されずに肩を落とした。それにしてもあの建物が商人ギルドなのか。冒険者ギルドは町の中央寄りにあったけど、こっちはそうでもないんだな。
雑談をしているうちに貸し馬車屋に到着する。店頭では立派な馬の石像が存在感を放っていた。この店舗は受付と事務仕事だけで、厩舎や牧場は町の外にあるらしい。町の外の土地は町の中よりも安く借りられるそうなので、それをうまく利用しているのだろう。
店の外で待っていると、すぐにゴーシュが店員と共に出てきた。積荷を預けた時に手続きは済ませているんだろう。
俺たちは揃って東門を通り、町の外へ出た。門を出て左手側には柵に囲まれた牧場があり、草を喰む馬の姿も見える。あれが貸し馬車屋の牧場なのかな。
店員がここで待ってくれと言い残してその牧場へと向かうと、しばらくして馬と馬車を引き連れて戻ってきた。
馬が引っ張っている馬車には屋根はあるものの、飾りを取っ払った質素な外観はいかにも行商用の馬車であり、なんとなく前世の軽トラを連想させた。
「それじゃ行くぞー。子供達は馬車に乗り込めよー」
ゴーシュが御者台に座りながら声を上げる。馬車の踏み台は少し高かったが、先に乗り込んだデリカが引っ張り上げてくれた。
馬車の中にはシーソーの資材が積まれているが、俺達三人分が座るスペースは十分あった。もし邪魔になったらアイテムボックスに入れようかと思っていたが、どうやら大丈夫のようだ。
俺達が乗り込んだのを確認すると、ゴーシュが手綱を軽く動かした。するとガタンと馬車が揺れ、次第に外の景色が動き始める。こうして馬車で行く一泊二日の旅が始まった。
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