44 ポーション作り

「マルクちゃん、ニコラちゃん。お先に帰るわね。お薬ありがとねー」


 若奥様とリッキーが手を振りながら帰って行く。そろそろ日も暮れてきたし、俺たちも帰ったほうがよさそうだな。


 秘密基地でテーブルを囲んでおしゃべりをしていたウルフ団の面々に声をかける。


「みんなー、僕たちもそろそろ帰るね」


 するとデリカがハッと驚いて声を上げた。


「あっ、もうそんな時間なのね! 今日はギルおじさんが来なかったからついつい長居しちゃったわ」


 今日はギルが来ない日だった。ギルがいる時は子供はそろそろ帰りなとせっつかれるので、今日はいつもより遅いくらいの時間だ。


「それじゃあ月夜のウルフ団も帰るわよ!」


 デリカの号令で全員が一斉に立ち上がる。相変わらず訓練されているなあ。結局全員で空き地を出ることになった。



 そうして帰宅した後は夕食まで宿の手伝いをした。俺は店前を掃除したりテーブルを拭いたり掃除関連の仕事が多い。接客は母さんとニコラにやってもらった方がお客さんも喜ぶし適材適所なのだ。なんだか少し悲しいがきっと気のせいだろう。


 そして夕食後に風呂に入った後は、すり鉢とすりこぎ棒を子供部屋に持ち込んで、ひたすら薬草をゴリゴリとすり潰していた。


 ゴリゴリゴリゴリ


「……お兄ちゃん」


 ゴリゴリゴリゴリ


「ん?」


 ゴリゴリゴリゴリ


「私そろそろ寝たいんですけど」


 ゴリゴリゴリゴリ


「うん、おやすみー」


 ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴーリゴリ


「ゴリゴリが気になって眠れないと言いたいんですけど……!」


「アッ、スイマセン」


 そんな出来事もあったが、その甲斐もあって小壺十個分の軟膏が出来た。明日はこれでポーションを作ろう。



 ◇◇◇



 朝目が覚めると腕が酷い筋肉痛だった。どうやらゴリゴリしすぎたようだ。すぐに回復魔法をかけてみたところ、痛みは消えたがダルさが残った。回復魔法も万能じゃないようだ。


 朝食を食べた後は宿の開店準備を手伝う。その後は自由時間だ。すぐさまニコラは二度寝しに子供部屋へと向かった。


 よく寝るねと言いそうになったところで昨晩のことを思い出し、グッとこらえる。地雷を回避した自分を褒めてやりたい。


 ニコラと別れて一階の厨房に向かう。さっそくポーション作り開始だ。


 厨房に到着すると、そこには誰もいなかった。厨房の主である父さんは買い出しに出かけ、そして母さんは洗濯。お手伝いのおばさんは食堂で接客をしているのだろう。


 誰もいなくても特に問題はない。ポーション作成に使う容器を食器棚から物色する。


 ウチの食堂は普段は陶器か木の食器を使っているが、ちょっとだけ高いお酒を出す時にはガラス製のグラスを使う。今回はそいつを借りよう。ポーションの作成過程をしっかり観察したいし、ポーション=ガラス容器みたいなイメージもあるしね。


 グラスをテーブルに置き、中に軟膏を小壺一個分、ボトリと入れてみた。


 そして水魔法で水を注ぎ光属性のマナを加えるとグラス全体がほのかに光る。光属性のマナ特有の輝きだ。すると軟膏は氷にお湯を注いだかのようにあっさりと水の中に解けた。


 こんなに簡単に溶けるなら、ポーションに使う分はあそこまでゴリゴリとしなくてよかったんじゃ……。


 無駄な労力を使ったことにガッカリしつつ、光属性のマナを加え続ける。しばらくするとマナが入らないような感覚があった。どうやらこれ以上のマナは無意味のようだ。グラスに触れていた両手を離した。


「おお……、完成だ」


 思わず声が漏れた。グラスの中は薄緑色の液体で満たされている。マナを加えていないのでポーション自体はもう発光はしていないが、キッチンに差し込む光を受けてキラキラと輝きとてもきれいだ。


 このままグラスごとアイテムボックスに収納しておきたいところだが、グラスは食堂で使うものだ。仕方がないので土魔法で容器を作ることにした。


 もう慣れたもので、土魔法製容器が水で濡れても泥で滲むことはない。前世でかつてコンビニ販売が話題になった、某ポーションの容器を模した物にポーションを移し替えてアイテムボックスに収納した。


《E級ポーション セジリア草》と表記された。E級?


 ポーションについて詳しくは知らないが、ランクがあることくらいは知っている。デリカ達と町を巡回している時に、通りにある道具屋を覗くと店頭にポーションが並んでいるのを見たことがある。それにはF級ポーションと記載されていた。


 どうやらその時に見た代物よりもワンランク上らしい。……アイテムボックスを信用すればだけど。


 そもそもアイテムボックスの鑑定は信用に足るものなのか、しっかりと検証をしたことは無かったりする。しかし神様から贈られた能力だし間違いはないと信じたい。


 誰の入った残り湯だとか変な鑑定をされることもあるけれど、そこは愛嬌だと思っておこう。


 そういうわけでこれはE級ポーションだ。俺の中では間違いない。


 道具屋で見たF級ポーションの注意書きには擦り傷や二日酔い、微熱等の症状に効くと書かれていた。怪我にも病気にも両方効くのはさすがファンタジーだなと感心したのは覚えている。ちなみに値段は銀貨3枚だった。結構お高い。


 うーむ、E級の効果や販売価格が気になるね。F級を上回るのは確実だと思うんだけど、さてどうしたものか。


 困った時にはニコラに聞けばいいと思うけど、さすがに昨夜の出来事があって、今寝ているニコラを起こすのはなんとも不味い気がする。


 セリーヌも詳しそうだけど、冒険者ギルドに出かけてそのまま仕事に行ったようだ。


 ほかには隠居商人のギルも詳しいと思う。もしかするとポーションを扱っていたかもしれないし、むしろギルが一番詳しい気がしてきた。よし決まりだ、ギルに聞こう。


 昨日は空き地に来なかったが二日続けて来ないことはあまり無い。おそらく今日なら会えるだろう。俺はいますぐ空き地に行きたい気持ちを抑え、ポーション作りを再開することにした。

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