21 光魔法
セリーヌをお風呂小屋に残し、俺は子供部屋へと戻った。お早いおかえりですねと言いたげな顔をしているニコラに事情を説明する。
「セリーヌがお風呂を使いたいって言うので戻ってきたんだよ。浴槽の研磨は後でね」
「ほほう、セリーヌがウチに泊まってたんですか。後で湯上がりふかふかおっぱいを堪能しに行かなくてはいけませんね」
「……なあ、お前ってセリーヌがくるたびにベタベタと甘えてるけど、もしかしてそもうそっち関連に目覚めてる上にあっち方面なの?」
なるべく言葉をボカして聞いてみた。ド直球に聞くのはちょっとね。
「違います。そういうアレではありませんよ。人は自分には無いもの素晴らしいものを他人の中に見つけたとき、どうすると思います? それは、愛でるか嫉妬するかの二択なのです……。そして私は前者。ただ、それだけなのです……!」
ニコラは世の中の真理を語るように仰々しく答えた。正直すごく嘘くさいんだが、まあ前世の学生時代でも女の子同士がふざけあってキャッキャとおっぱいを触ってるようなシーンを見たことはあったしな。そういうものなのかね。
俺が無理やり納得しようとしていると、更にニコラが付け足す。
「でも、こういう趣味って天使の頃はなかったんですよね~。もしかしたらお兄ちゃんの魂が混ざった影響かもしれません」
「えっ! 俺の影響かもしれないの? だとしたら悪いことをしたな……」
ニコラがセリーヌに抱きついてるとき、かなりヤバい顔をしている時があるからな。あの変態チックな表情が俺の影響かもしれないとすれば、その罪悪感は計り知れない。だがニコラはなんてこともないように言い放つ。
「なーに言ってるんですか、責任なんて感じないでいいですよ? 私からすれば趣味がひとつ増えて、むしろ感謝してるくらいなんですから。心がときめくものってのは、いくつあってもいいものです」
「そういうものなの? それならまあいいのかな……」
「ええ、ええ。新しい扉を開いてくれてマジ感謝なのです」
「そうかい、わかったよ。……ところでさ。さっきセリーヌが照明の魔法を使っていたよ。あんな魔法初めて見た」
「冒険者でもない限り、明かりはランタンがあれば事足りますからね。それに照明の魔法はマナのコントロールと維持が多少は難しい部類ですし。……セリーヌって思ってたよりも手練だったんですね。おっぱいで男を手玉に取ってイージーモードで冒険者をしてるのかと思ってました」
ああ見えて、男の冒険者なんかに
「照明の魔法って光魔法なんだろう? 四大属性に光魔法は含まれてないけど、なんで?」
「光魔法と闇魔法は二極属性と言われています。二極属性と四大属性、それと無属性の七つが魔法の系統となります」
なるほど。その七つはこの世界の七曜制にそのまま当てはまる。ちなみに休日に当たるのは光曜日だ。教会のイベントの日ってくらいの認識で、みんな普通に働いてるけどね。
「あと、『ライト』って口に出して唱えてたけど、名前を唱える必要がある魔法ってあるの?」
「いえ、別に唱える必要はないですけど、魔法と名前を自分の中で関連付けしておくと、とっさの時に発動しやすくなるみたいですね。冒険者らしい工夫だと思います。ちなみに中には呪文の詠唱なんかをする人もいますが、ああいうのはマナを扱うのが難しい魔法を使う際に、集中力を高めるルーティーンみたいなもんです」
なるほど。たしかに発声することで体に覚え込ませたほうが、魔法をスムーズに使えるかもしれない。ちょっとしたコツとして頭の片隅に置いておこう。
それにしてもサポート役として事前に知識を蓄えてきただけあって、さすがにニコラは魔法に詳しいな。この際ついでに聞いておくか。
「光魔法って言えばやっぱり回復魔法が気になるんだけど、これって俺は使えないのかな」
「人は魔法が使えない人でも魔力を体内に宿してます。そこに介入するのが回復魔法ですから、他人の魔力を打ち消すために、繊細なマナのコントロールか、もしくはゴリ押しするための大量の魔力が必要になってきます。コントロールのほうは訓練しだいなので今はなんとも言えませんが、魔力の容量だけは順調に伸びてるお兄ちゃんなら、やってみれば使えそうな気がしますね」
「そっか。日々の練習がちゃんと身になってて何よりだよ。これからは光魔法も練習してみるかな」
そんな風にニコラ先生の魔法授業を受けていると、階段の方から誰かが上がってくる音が聞こえた。しばらくすると扉がノックされる。
「はーい」
俺が応答すると扉が開いてセリーヌが部屋に入ってきた。着ているものはさっきと変わらないが、風呂上がりで顔が少し火照っていて色っぽい。まぁムラムラはしないんですけどね。
「レオナさんにここが二人の部屋だって聞いてお邪魔しに来ちゃった。ニコラちゃんは今日もかわいいわね~。マルク、お風呂ありがとうね! 最高の気分だったわ!」
「わあい! セリーヌお姉ちゃんだ!」
ニコラがさっそく近づいてセリーヌに抱きついた。そしてセリーヌが
「ニコラちゃんはまだまだおっぱい離れできないのね。そういうところもかわいいわ~」
ニコラはそこからワンランクかツーランク上がったステージに立っているのだと思ったけれど、口にはしない。
「それでマルク、お風呂を宿屋のサービスにするつもりはないの? 私毎日でも入っちゃうわよ」
「掃除とかお湯の用意とか面倒だからやるつもりはないよ」
「私なら一回入るのに、銀貨2枚払ってもいいんだけどな~」
ウチの宿屋が一泊朝食付きで銀貨5枚なことを考えると結構な値段である。ちなみに俺は銀貨1枚1000円くらいだと考えてる。あんな浴槽だけの風呂の入浴料が前世のスーパー銭湯以上の値段になってるわけだ。ちょっと心が揺れ動くけど、やはりめんどくさいという気持ちが勝った。
「だめだよ。万が一繁盛したら僕が遊びに行けなくなっちゃうしね」
「そういえばまだまだ遊びたい盛りの年頃だったわね。なんだか雰囲気が落ち着いてるので忘れてたわ」
うーん、もっと普段から子供っぽく振る舞ったほうがいいんだろうか。でも口調だけでも難しいのに、行動を子供っぽくするのはかなり難易度が高いな。
「残念だけど、諦めるしかないかしらん。あ、でもたまになら入らせてくれる?」
「それくらいなら平気だよ」
「やった! じゃあそういうことでよろしくね」
用事はお礼と今後の風呂の継続利用の件だったようだ。セリーヌはニコラの頭を最後にひと撫ですると立ち上がり、扉のドアノブに手をかける。そしてそのまま部屋から出るのかと思うと、ふいに立ち止まった。
「あ、そういえば浴槽のお湯、どうしていいのか分からなかったから、そのままにしておいたけど大丈夫?」
「あとでお湯を掻き出して捨てるから大丈夫だよ」
実際はアイテムボックスに収納してるけど、そういうことにしておこう。
「そっか、じゃあお願いね。私の残り湯を変なことに使っちゃダメよ~?」
そう言い残してセリーヌは去っていった。残り湯云々は女子の鉄板ネタなんだろうか。むしろ残り湯ってどんな変なことに使えるんだよ。逆に聞いてみたいよ。
「よっぽど残り湯で何かしそうな変態に見えるんですね」
至福の時間が終わり、賢者タイムのニコラがボソっとつぶやいた。違うと信じたい。
――後書き――
セリーヌの書籍版キャラクターデザインと担当イラストレーター福きつね先生のイラストを作者ツイッターにて公開しております。URLはこちら!
https://twitter.com/fukami040/status/1388327681880625153
ぜひぜひ見てくださいませ\(^o^)/
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