(四)-5
窓越しのムサシ君は手の平を耳に付けながら、私の声を聞こうとしていた。
そして電車はムサシ君をその体勢にしたまま、動き出し、走り出して行ってしまった。
ありがとう。そう、言うことはできた。でも、あの様子だと、伝わってないだろう。私は大きなため息をついた。しかたがないので、また明日言えばいいか。
そう思って、自分も帰る電車を待つことにした。しかし、この時点で重大なミスをしたことに気づいた。
よく考えたら、私は彼と帰る方向が同じだった。さっき来た電車に私も乗らなきゃいけなかったのだった! 私も一緒にあの電車に乗ってれば、そのまま話ができたのに! ありがとうって言えたのに! たったひとことだけ言うだけだよ、なんでこんなに苦労しているの? 一緒の電車に乗っていれば、次の駅に着くまでに言うことだってできたのに! あー、もう、失敗した……。
(続く)
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