序章 黒い人物
その中で、
すぐさま、
首に巻いたストールに口元を
「結局、社会人になってから一度も会わないままだったな……」
祖父の
「若いもんがこんなところで何をしている! 若いんだから、こんな老いぼれの相手などしてないで遊べ遊べ! 人生はあっという間だぞ!」
学生の
「そんなこと言ってぇ、
寂しがり屋な癖に、そうやって照れ
「ったく、口の減らない……
「お母さんはおじいちゃんそっくりだって言うよ」
言葉に
「よし、勝負!」
「受けて立つ!」
「夕飯までには決着つけなさいよぉー」
祖母の声を背に、二人して争うように居間へ駆け
何も言い返せなくなった祖父が勝負をもちかけ、私が応じる。
トランプ、
子どもの頃は私が勝負を
勝敗は一進一退でなかなか決着がつかなかった。負けず
「本当に
祖母が
月日が
「最後の勝負は囲碁だったっけ。結局、おじいちゃんの勝ち
携帯電話ケースのポケットに
「必勝
「泣いている
祖父の
その言葉に背を押されるように、電光
「さて、そろそろホームに行くか」
呟いて、自分に気合を入れた。荷物を持って、待合室を出る。
目の前を真っ黒い
「えっ……?」
私は思わず
人影と呼んでみたが、その様相はあまりに異質だ。
身長は私と同じくらいだろうか。それを
そして何をおいても、文字通り「黒い」のだ。
まるで子どもが絵の具で黒く
黒い人影は
何? あれ……。
思わず周囲を見回す。しかし、誰
ハロウィンはもう終わった。何よりこんな混雑した東京駅で公然と
「まさかこの
それこそ、ありえない話だ。
なんか……気味悪い。
すぐに黒い人物から視線を外す。乗る予定の新幹線が
「十六番線、か……」
再び顔を上げると、目の前に黒い顔があった。
「──っ」
「ああ……見つけた」
ひどく
私は浅い呼吸を繰り返した。その異様な形相を、ただ見つめることしかできなかった。
誰か、だれかっ……。
心の中で何度も助けを
黒い人物が、小枝のような細い腕を
そのまま、私を指し示した。
「助けて……お願い──」
黒い人物の言葉は、そこで
私が最後に
そして、
それが、私──「紅坂飛鳥」の、最後の記憶だった。
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