最終話 ねえ、目をつぶってくれないかしら

――迷宮を脱出した翌日から、俺は体調を崩して寝込んでしまった。

いわゆる「迷宮酔い」になっていたんだそうだ。

ようやく体調が戻ったので、今日から手記を再開する。

あれから、三日が経った。

リーダーとラグ姉さんが他の船員を追い立てて、後始末に奔走していたのはよく覚えている。あの二人も同じ症状が出ているはずなのにな。俺は、まだまだってことか。

今は昼過ぎ。俺たちはリジヤ公王の主催するお茶会に呼ばれて「鎧の町」の王城を訪ねることになった。 byルシェド



GM:というわけで、みなさんは王城の中庭にある東屋あずまやにいます。

ラグ:いきなり城のど真ん中ね。

GM:周辺には、銃を携えた近衛兵が整列し、大きな円卓の上座には主催者であるリジヤ公王が座っています。

ツヴァイ:飛空挺で来たことでいいのかな。

GM:まあ、いいかな……事情が事情だけに、目立つのはどうかと思うけど。

ラグ:そうよねぇ? リーダー。

ルシェド:キングくんさあ……。

ツヴァイ:うるさいなあ。だいたいね、気に入らないんですよ!

ラグ:また始まった。

ツヴァイ「我はキングであるぞ! なぜ王が王に謁見せねばならんのか!」って、ぷんすかしてる……口には出さないけど。

ルシェド:「すげーなこの人、本気でそう思ってるんだ」って、呆れます。

ラグ:「まあまあ、この場は私が前に立つわ。だから、ツヴァイ、おかしなことだけはしないでよね」釘、刺しちゃうわ。

ツヴァイ「ツーンだ」




GM:事件の解決後、義賊団ジャッジメントキングダムのもとに、リジヤ公王から招待状が届いた……そういうことですね。ただし。

ラグ:はい。

GM:公式の招待ではありません。

ルシェド:仕方ないよね……。

ツヴァイ:……。

GM:15歳にしてスフバールの最高指導者に座するリジヤ公王は、給仕にお茶の支度を指示すると、実務一辺倒な人物らしく簡潔な礼を述べます。

ツヴァイ:もっと大げさに感謝してくれていいんですよ。

ラグ:しーっ。




GM/公王:……そして、謝辞もそこそこに質問を投げかけます。「それで、裏で糸を引いていたのは、魔王軍のスパイであったと?」

ツヴァイ:「そっすね」

ラグ:「もう! えー、そうです、陛下。心中お察し申し上げます。」

GM/公王:「獅子身中の虫であったか……ミエルにはかわいそうなことをした」と、額に手を添え、ため息をついて一同を見回します。

ルシェド:そういえば、ミエルは?

GM:後で出します、いったんこのまま進行させてください。

ルシェド:ん、わかりました。

GM:そして、リジヤ公王は新たに言葉をつむぎます。

ラグ:拝聴しますよ。

GM/公王:「三日前、日中にも関わらず、スフバール全土に流れ星が降った。そのことで臣民に動揺が走っている。吉兆と見るものも、凶兆と見るものも、等しく」

ツヴァイ:ふむふむ。



GM/公王:「民の混乱を治めるべく、私は声明を出さねばならないのだ。その内容を推敲するにあたり、諸君らの見聞きしたことを参考にしたい」

ラグ:つまり、リジヤ陛下に説明する体裁で、脱出の時のRPをやりましょう、と。……そういう流れでいいのかな?

GM:はい、そうですね。ここからは回想内にて、脱出シーンをRPしてもらうことになります。

ルシェド:なんか、すでに終わったことを演じるのも不思議な感じだなあ。

GM:まあその、GMのやらかしでもあるので。いわゆる一つのアレです。

ラグ:連帯責任。

GM:と、いうことです、はい。

ツヴァイ:ええと、迷宮の崩壊からシーンを作ればいい?

GM:そうです。では、その時の描写から始めます。




――《スター・ガイド》にハルーラが応えた時から予感はしていた。

流星群の合間に、一瞬、天に現実世界の青い空を見た気がしたから。

だから、テンデとの決着をつけたあと、舞台のセットが壊れるみたいに、亀裂が亀裂を呼んで、空の青が染み出してくるのを見ても、俺は驚かなかった。 byルシェド




ルシェド:ああ、崩壊か……。

GM:迷宮が生み出した夜天が砕片と化し、貴方達の上に降り注いでいます。カン、コン、と乾いた音が甲板にこだまします。

ラグ:星空に質量があるの?

GM:「書き割り」のような、板に星の絵がかかれたような感じです、砕片。迷宮の魔力が消えつつあると考えてください。今はまだ、小さな破片ですが。

ツヴァイ:急いで逃げんと、大きな破片にやられてしまうわけですな。

ルシェド:GM、ミエルは傍にいるんですよね?

GM:いますよ。

ルシェド:彼女の手を引いて船内に避難したいんですが。

GM:どうぞ! 従うミエルは、どこか吹っ切れた顔をしています。



ルシェド:「行こうミエル、夢が終わる」

GM/ミエル:「そうね、ルシェド」

ツヴァイ:「ルシェドに先を越されたか。俺もぼさっとしてられんな」飛空艇に乗り込んで声をかけます。「艦内総員! ここを脱出する!」

ラグ:「了解! ……最後の作戦ね」

ツヴァイ:「ああ、最後だ……!」

GM:では、貴方たちは、四方八方に亀裂が走る夜空を、飛空艇で駆け抜けようとします。しかし、その時です。

ツヴァイ:おっと?

GM:ルード君が声を上げます「なんだあ、ありゃあ……」

ツヴァイ:「何をマヌケな声を上げてるのかね、ルーク君は」

GM/ルード:「ルードだ! いや、後ろがすげーぞ」……彼は後方を指差してます。後方というか、上昇してるから下方ですかね。

一同:なんだなんだ?




ムーンライトマイル号のはるか下、迷宮に広がる夜の森と湖が白く輝いていた。

落水した星空の破片……その光を吸い込んだのか、輝く湖面は満月のごとき様相を呈していた。

その輝きに、さらなる破片……そして指揮官を失ったS.シャドウマイルが呑み込まれていく。




ルシェド:おお、綺麗だ。

ツヴァイ:贋作S.マイルには上等すぎる墓標だな。

GM:その光る月の鏡を背に、飛空艇はぐんぐんと飛び立ちます。

ツヴァイ:指をパチンとして「振動に備えろ、ルード! 頼んだぞ!」

GM/ルード:「分かってる! 全速前進!」

ルシェド:ミエルを支えておきます。

GM:では、ミエルは貴方にしがみつています。

ルシェド:どんな顔かな?

GM:笑顔でしょうね!

ラグ:いいねー! 男の子してるわ!

ツヴァイ:ふむ、今流れているのもいい曲なんだが、もうちょっと何か無いかな。

GM:ほい来た、少し華やかなBGMに変えましょう。演出的には、アルテミシア嬢がマーチを奏でてくれることにします。

ルシェド:凱旋だねえ。この人にもお世話になりましたね。

ラグ:ここで唐突に、手元を見てプッて吹き出そう。

ツヴァイ&ルシェド:?

ラグ:ラグさんって人はですね、自分の持ち場に、帳簿を置いてる設定なんですよ。で、早速それを手に持って、弾薬費とかの勘定を始めてる自分に笑っちゃった。

ツヴァイ:「お前ってやつは……」

ラグ:「てへっ」




GM:星空の破片を一つ避け、また一つ避け……。

ラグ:どきどきね。

GM:ついには支柱ごと落ち始めた赤いカーテンの横を追い越し、飛空艇は現実の青空へと飛び出します。

ツヴァイ:脱出成功かな?

GM:その時です!

一同:!?

GM:落下する破片がキャパシティを越えたのか、眼下の湖面が盛り上がり、光の奔流となって、飛空挺ムーンライトマイル号に追いすがりーー……。

ツヴァイ:「回避! 回避ーーーー!」

GM:そして、飛空挺ムーンライトマイル号を追い抜き、スフバールの空へと滝のように流れ込みます!

ラグ:「ルシェド! 《スター・ガイド》ってこういう魔法なの!?」

ルシェド:「え、こんなの知らない……俺、マジで知らないっすよ!」と、わたわた。

GM:飛び出した奔流は、その雫の一つ一つが流星と化し、スフバール全土に散っていった……ように見えました。

一同:お~。




――演劇舞台、シヴァ―ルの物語、ミエルの夢、なにもかも崩れちまった。

俺たちは姫を届けるために王城に向かった。

ミエルのヤツはムーンライトマイル号に揺られながら、「物語の王子様が乗る、ペガサスみたい!」ってはしゃいでいたけど、案外図太いのか? 

それとも、ミエルの中でも、何か変わったってことなんだろうか? byルシェド




ツヴァイ:本物のペガサスがいるけどね、ここに。

GM:ヤボなことを言わない。

一同:(笑)

GM:下のほうがあれですね、そろそろスフバールのお城です。

ツヴァイ:しかし堂々と飛んできちゃって良かったのかな(笑)。

GM:ええと……国民の大多数は、流れ星のほうに気を取られていたということで。

ツヴァイ:これはお気遣いどうもどうも。



GM/ミエル:「帰らないといけないのね」

ルシェド:「……別に、このまま攫ってもいいんだけどな、俺は」

GM/ミエル:「いいえ、帰るわ。私、責任を果たさなくちゃ」と、ラグを見る。

ラグ:「覚えててくれたの!」ラグ、すごく嬉しそう。RPを拾ってもらえたので中の人も。

GM/ミエル:「覚えてるわ、キングのペガサスに乗ったことも、ナイトお姉さまに叱られたことも、型抜きも」

ラグ:いやあ、プレイヤー冥利ですね。

GM/ミエル:「飼育室の豚さんも、『月のゆりかご』も、流れ星も……私を迎えにきたルシェドも!」

ルシェド:わああ、感極まってきました。

ツヴァイ:ミエル……立派になって。

ラグ:お父さんかな?

GM/ミエル:「だから、私、帰る。お姉さまとお話して、みんなが私を助けてくれたことを、何が何でも納得してもらうわ」と、決然として言います。

ツヴァイ:「では、姫君」ええと、どこにどういう感じで降ろそうかな。

GM:バルコニーの前にしましょう、ミエルはピョコンっとバルコニーにおります。




ルシェド:何か、かける言葉……。

ラグ&ツヴァイ:……。

ルシェド:ダメだ、感情が大きすぎて頭が働かない。

ラグ:黙ってますよ、ルシェドが何か言うんでしょーって、ニヤニヤ。

ツヴァイ:同じく、ニヤニヤ。

ルシェド:俺の味方はどこにいるんだ。

GM:では、ルシェドさんを誰かがそっとつつきます。

ルシェド:味方が!

GM/アルテミシア:「物語をしめくくる言葉は、常に主役の手の中にあるものだよ」彼女がつついたのはあなたのポケット。中には『私を月につれてって』が入ってます。

ルシェド:ああ、そういえば……テキストの五番目って、まだ、公開してない?

ツヴァイ:してませんね。

ラグ:ほほう、ということは?

ルシェド:答えは……ずっと俺の中にあった、ってことです。



GM:じゃあ、ここは問答にしましょう。

ルシェド:お、いいですね。

GM:ミエルは厳かな面持ちで問いかけます!

ルシェド:はい!

GM/ミエル:「シヴァールは、王子から義賊になるんだけど、義賊になってから使う決め台詞があるのよね……」

ルシェド:「……じゃあ、今が、その時なんだな」

GM/ミエル:「義賊ルシェドが、女の子との別れ際に捧げる……」




GM/ミエル:『



ルシェド:「””」





GM/ミエル:「ふふふ、ありがとうルシェド、やっぱり、私の王子様よ」そう言うとですね。彼女はあなたの手を取ります。

ルシェド「ああ」…いつまでもこうしてはいられない、ですよね? GM。

GM:じきに、警護なり侍女なりがかけつけるでしょうね。

ルシェド:じゃあ、ツヴァイに振り向きます。せいぜい、強がった笑顔で。

ツヴァイ:ルード君に手ぶりで出航指示を。

ラグ:目を伏せて、微笑んでます。

GM:浮遊感と共に、だんだんと指先と指先が離れていきますー……。




――ミエルは声に出さず、口の形だけで「さようなら」と繰り返し言っていた。

俺達がすぐ見つからないよう、気遣ってくれたんだろう。

俺は、青空を走る流星群を見上げながら、シヴァールの最初の物語……それを締めくくる一節を思い出していた。


5/5

”シヴァールは剣をふるうのを止め、義賊へと身をやつします”

”そして転生した魔女の魂を探す旅の中で、多くの人に出会う事となるのです”。

”女性を一夜の夢に誘う彼は、いつも、同じ言葉を残します”

”「」とー……”


王子の物語は終わったんじゃない。

義賊になって、そして始まるんだ。 byルシェド





一同:と、まあ、こういう次第だったわけでして。

GM/公王:「……なるほど、諸君らの尽力は実に良く伝わった」

一同:ですよね!

GM/公王:「それで、その……迷宮の崩壊の際に、裏切り者のテンデを始め、魔王軍の情報を持つものたちは、みな”あちら”に呑み込まれてしまったと」

一同:すみませんでした!



GM:いやあ、GMも忘れていましたので(苦笑)。何より、テンデを1ターンで戦闘不能にされたのが、あまりに衝撃過ぎて。

ラグ:ツヴァイ、珍しく本気の怒りRPだったものね、「良いもの見れたわー」って呑気してた。

ツヴァイ:私も、戦闘終了までクリティカルの手ごたえに浸ってた。

ルシェド:『スーパーノヴァ』からテンション上がりっぱなしだったからね(笑)。

ツヴァイ:そんなわけで、ツヴァイはちょっとバツが悪くてすねているわけです。

ラグ:こういう時こそ、設定的に最年長の私が動く! 「公王様は何かお困りなのですね?」

GM:実際には、公王とGMがお困りなのであります。

ラグ:あら、そうなの?

GM:公王様の口から伝えますね、そのあと、ちょっとみんなの知恵を借りたい。

ツヴァイ:喜んで、ここまで来たら最後までこのシナリオを乗りこなしますよ。ライダー技能で。




GM/公王:「諸君らを公然と、英雄として扱うことができないのだ。ミエルにも散々詰め寄られたのだがな」と、表情を変えずに、しかし全身から”困ってます”オーラを出しながら公王は言いました。

ラグ:器用な人だなあ。

GM/公王:「スフバールの臣民から見た諸君らの飛空挺はな、橋を損壊し、王女を誘拐し、移民街の宿屋を瓦礫の山に変え、町の上空に変な幻を作って逃走した挙句、流れ星をばらまいて国土を混乱させている、迷惑極まりない存在なのだ」

ツヴァイ:これは確かに迷惑極まりない。

ラグ:流れ星以外はテンデのせいなのにい。

GM/公王:「一方的に発布を行って、臣民の思想を押さえつけても反発を買うだけであろう。つまり……諸君らの扱いに困っているわけなのだ」



そう、本来のシナリオ想定では、ミエル救出の謝辞と恩賞を下賜し、公王が義賊団の完全な潔白をスフバール全土に向けて宣言する、そのはずだった。

魔王軍の関与を示す重要証拠であった「テンデの残骸と敵の飛空挺」。

その回収を(GMを含めた)全員が忘れていたことで、エンディング描写の変更を余儀なくされたのである。



GM:まあそういうわけで、この「お茶会」は義賊団ジャッジメントキングダムの処遇をどうするか、交渉すべく開かれたというわけです。

ルシェド:交渉? ほんと? このまま消されたりしない?

GM:しませんよ! 今のみなさんの立場は、”公王リジヤの恩人にして友人”という扱いです。




こうして、「交渉」と言う名の、エンディング演出を決める会議が緊急発足した。

もとよりリジヤ公王を気に入っていたこともあり、政治交渉が好きなラグのプレイヤーが音頭を取りながら、義賊団とスフバール聖鉄鎖王国の関係を構築していくことになった。



ラグ:できました! 御見積書、兼、請求書面はこのようになりました!


(わざわざPDF.でデータを公開)


ルシェド:ガチ目で笑った。

ツヴァイ:架空の請求書番号に、架空の金額ガメルに、これ、いる?

ラグ:だって請求書叩きつけるの、楽しいもん。ではGMに、ていっ!

GM:うわー、叩きつけられたあ。

ラグ:いやー、実に気持ちがいい。

ルシェド:楽しそうで何より。

GM:では内容を拝見……。よしよし、じゃあエンディングの方向性ですが、こういう感じで……ごにょごにょ。

一同:ふむ、ふむ……。



GM/リジヤ:では続きからいきます。ラグさんが中心でいいかな。

ラグ:はい。あ、今日はすごくきっちりした服装で来てます。今更ですが。

GM/リジヤ:「つまり……諸君らの扱いに困っているわけなのだ」

ラグ:「公王陛下にこれを」と、給仕の人に書面を渡すわね。

ツヴァイ:「おい、何を勝手なことを」って、RP上では驚く。

ラグ:「リーダーがふて腐れてる間にしたためたのよ、悪いようにはしないから、見てなさい」

ルシェド:「なんかぶっ倒れてたのが悪い気がしてきた」

ラグ:「……もちろん、ルシェドはそのツケを払う事になるわ」と、ニヤリ。

ルシェド:「へ?」




GM/リジヤ:「まず、前提として、。それについては、申し訳ないが、理解したまえ」

ツヴァイ:ううむ、まあ、納得するしかあるまいて。

GM/リジヤ:「一方で、、これにも条件があるが」

ラグ:私はこういうの、結構すき。

ツヴァイ:条件を聞きましょう。

GM:簡単です、みなさんが今後この国を訪れる際には、例の隠しドックを必ず使うようにしてもらうだけです。

ルシェド:あ、そんなんでいいんだ。

GM/リジヤ:「『お尋ね者』はあくまでだからな」

ラグ:良かった、話せる人で。




以上を踏まえて、ラグの作った請求書の検分が始まったのだが……。




GM/リジヤ:「ふむ、項目の三番目までは問題ない」と、眉一つ動かさず公王は述べます。

ラグ:わくわく。

GM/リジヤ:「成人式と劇場の件は、すでに実施したから削除してよいな」

ツヴァイ:どきどき。

GM/リジヤ:「四番目の項目について、詳細を聞きたいのだが……君が、ルシェドだな」と、表情を変えずにルシェドさんを見ます。

ルシェド:「へえ!? お、俺、は、はいっ!」俺ですか!

ツヴァイ:しっかりしろ、プリンス(笑)。

ラグ:そうよ、プリンスぅー。

ルシェド:ん、待て、何か足しましたね!? 俺が見た時は、四番目の項目なんて無かった!

GM:では、給仕が公王から預かった書面を、あなたに見せます。内容は以下の通り。



1.本件で義賊団ジャッジメントキングダムが使用した金品及び消耗品の請求権

2.互いを友人関係とし、互いの領土に招待し、される権利とその保証

3.休止状態となっている成人式と劇場の最終公演を再開し、VIP席で観覧する権利

4.ルシェド王子を親善大使としてスフバール聖鉄鎖王国に駐留させる許可




ルシェド:なん……。

GM/リジヤ:「……あー、我が方からは、飛空挺開発の技術研究に協力して欲しい、その他には、あーだ、こーだ」と、公王はラグとの交渉を続けます。笑いながら。

ラグ:あーだ。

ツヴァイ:こーだ。

ルシェド:なんだあああああ! この項目はああああ!!

ツヴァイ:「読んでの通りさ、しばらくはスフバールに滞在しろ、休暇だと思え」

ラグ:「ちゃんと迎えに来るから心配しないでいいわよ」

ルシェド:「いや、だって……これ、人質みたいなもんでは?」

GM:ですね、王国側で大規模な取り締まりを行わない、その交換条件という側面もあります。

ラグ:この公王様、油断ならないわね。嫌いじゃないけど。

GM/リジヤ:「まあ……君が大使として相応しいかどうかは、もう少し様子を見よう、そうだろう? 我が妹よ」と、手を叩いて合図します。



ゆっくりと、中庭の植え込みの影からミエルが姿を現した。

その姿は、かつてルシェドが見た、成人式を待つ女の子たちと同じ、水色を基調に白をあしらったドレス姿だった。そしてー……。



GM/ミエル:「最終公演、実は今日なのよね、成人式もあるし。でもね、一人で行ってもつまんないわ」と、ペアチケットをはたはたと振りながら、ミエルが近づいてきます。

ルシェド:お、おお。

GM:彼女は、ゆっくりとルシェドさんに手を差し出しますね。

ルシェド:えーと、これ、公王陛下の目の前だけど、いいのかな。

ツヴァイ:どうなのかな、GM?

GM:良いですよ、これが、エンディングの最後のシーンになりますので。

ツヴァイ:ですってよ。

ラグ:行きなさいルシェドくん!

ルシェド:最後の最後に、えらい難関が来たな?

GM:ちょっと休憩しますか?

ルシェド:いや、行きます!といっても、どうしたらいいかは分かんないですけどね。


ツヴァイ:じゃあ、ここはリーダーが動こう。GM、一応確認したいんだけど、公王陛下は、ミエルが我々に送った依頼状の内容は知ってる?

GM:知らないかな。

ツヴァイ:では、リジヤ陛下には驚いてもらおうか……「ミエル姫!」

GM:呼ばれたミエルは「ん?」という顔をしています。

ツヴァイ:「此度の依頼の立役者は、ルシェドと言っても過言ではない。その報酬として、ハートの砂糖菓子が半分では不足と言うもの」

GM/リジヤ:「話が見えんな……? 不足とあらば、褒美は満足いくまで用意するが……?」と、事情を知らない公王様はこう言ってます。

ラグ:ふふふ……。

ツヴァイ:「ミエル姫、依頼に基づき、ルシェドに褒美をやってくれないか」




GM/ミエル:「わ、わかったわ」ルシェドの方を向いて。

ルシェド:え?

GM/ミエル:「ねえ、目をつぶってくれないかしら」

ルシェド:お、おう。なんかよくわかんないけど目を閉じます。

GM/ミエル:ミエルが近づいてくる気配がしますね。

ルシェド:はい。

GM/ミエル:そして、彼女は背伸びをしてー……。





――その後、大騒ぎになったことは今でもよく覚えている

慌てふためく召使や近衛兵と、目を点にして硬直している公王と、ティーカップを打ち鳴らしておおはしゃぎするリーダーとラグ姉さんと。

だけど、このとき俺の頭の中にあったのは唯一つ、「ミエルを攫って逃げよう」ってことだけだったんだ。 byルシェド




ルシェド:「外にいくか!」と言って、ミエルと一緒に走り出します。

ラグ:口付けの後をつけたままね、行ってらっしゃーい。

ツヴァイ:まあ、公王も強くは怒れないだろう。

GM:硬直してますよ、「なにがおこったの?」みたいな感じで。

ラグ:じゃあ、公王陛下が正気を取り戻したら、交渉を再開しましょうね。

ツヴァイ:二人は?

GM:二人は手をつないで、あっけにとられた王城の人ごみを走り抜けていきます。どこに向かうのかな。

ルシェド:そうだなあ……ここはやっぱり、劇場ですかね。

GM:なるほど、じゃあ、ミエルが息を切らせながら問います。

ルシェド:どうぞ!




GM/ミエル:『



ルシェド:「



ルシェド:「









【スフバール聖鉄鎖王国・公記】

蒼天の空に無数の流星が降り注ぐという奇跡をスフバールの臣民が見た。

これを受け、後日、公王リジヤ・アルゲエーヴァは以下の声明を発表した。


”我が妹ミエルを誘拐せんとした不貞の空賊船を、ハルーラが打ちのめした。全土に流れた輝きも、また、ハルーラの恩寵である。移民、臣民の別なく、正しきスフバールの民に祝福あれ”


この声明によって人心の混乱は治まった。

しかし、流星の光を見たものたちは、一様にこう述べたと記録されている。

「成人式で初めてお目見えしたはずなのに、ずっと昔から、ミエル様のお顔を知っていたような気がする」


本件を境に、スフバール聖鉄鎖王国の成人式は例年の三日後に制定しなおされた。




ー了ー




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