第157話 アポロンの月桂冠

セドナが激痛で全身を痙攣させる。


 そして、セドナは意識を失い、その場に倒れた。


「シャア!」


 勇者エヴァンゼリンが、裂帛の気合いとともにセドナの近くにいるカエサルめがけて聖剣を振り下ろす。


 カエサルは、収納魔法から剣を取り出して構え、エヴァンゼリンの剣を弾き返した。


 そして、カエサルは左手をエヴァンゼリンにむけて、張り手のように突き出す。


「ぬぅ!」


エヴァンゼリンは、警戒して後退した。


 カエサルには、『アポロンの月桂冠(コロナダフニス)』という異能がある。


 その異能があるが故に、エヴァンゼリンは必要以上に警戒してしまった。


 いや、エヴァンゼリン以外のメンバーも全員が警戒し、一瞬の隙が出来た。


 その隙を百戦錬磨のカエサルは見逃さなかった。


 カエサルは、ナギ、エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタ、大精霊レイヴィアに包囲されていた。


 その包囲を、カエサルはすり抜けるようにして抜け出して、安全圏に脱出した。


(なんという男じゃ)


 大精霊レイヴィアは驚嘆した。


 カエサルの呼吸と間合いを読む力に驚いたのだ。 


 信じがたい程に洗練された洞察力だ。


 大精霊レイヴィアは横目で、ナギとセドナを見た。


(ナギはセドナに任せて、儂らでカエサルを討つ!)


 大精霊レイヴィアはそう判断して、魔力を練り上げた。


 同時に大魔導師アンリエッタも、強大な魔法を行使するべく、魔力を練る。


 前衛の勇者エヴァンゼリンと槍聖クラウディアが、カエサルめがけて突撃した。






「セドナ、しっかりしろ!」


 ナギは地面に膝をついて、セドナを抱き上げた。 


 幼いセドナの肢体をナギが抱きしめるようにして抱える。


 セドナは意識を失っていた。


 ナギは、焦って叫んだ。


「メニュー画面! 『アポロンの月桂冠(コロナダフニス)』を解除する方法を教えてくれ!」


『ナギ様、危ない!』


 メニュー画面が叫んだ。


 刹那、宙空に剣閃が舞った。


 セドナの弭槍の先端についた短剣が、ナギの首を斬りつける。


「!」


 ナギは、間一髪でセドナの攻撃をかわした。


ナギの首の皮がわずかに切れた。


 そして、ナギの首から血が少しだけ流れる。


「セドナ」


 ナギはセドナから、三メートルほど距離を取った。


 セドナから攻撃されるという有り得ない事態にナギは当惑していた。 セドナからの攻撃でなければ、ナギには薄皮一枚といえども、攻撃は当たらなかっただろう。


 有り得ないという思い込みがナギの反応を鈍らせたのだ。


 セドナが、目を閉じたまま立ち上がった。


 銀髪金瞳の美しいエルフが、そこにいた。


 夢幻的な美貌。


 神々の寵愛を受けた美しい肢体。


 完璧極まりないその顔。


 いつもと同じセドナの顔だった筈が、今は暗い影が落ちて、別人のように見える。


「セドナ……」


 ナギが呻くように言う。


やがて、セドナの黄金の瞳が開いた。


 同時に、セドナの頭上に月桂冠が浮かび上がった。


 黒紫の妖しくひかる月桂冠が、王冠のようにセドナの頭にかぶらされていた。


 『アポロンの月桂冠(コロナダフニス)』だ。


 ローマ帝国時代、卓抜した栄光を持つ者に与えられた月桂冠。


 ローマ帝国時代においては、『永遠の支配』『叡智』『栄光』の象徴であったという。


 セドナの頭にある月桂冠は、そのような神聖なものではなかった。


 紛うこと無き魔神の魔力に満ちている。


 邪悪極まりないオーラが、金髪銀瞳の少女の肉体を支配している。



 セドナは《白夜の魔弓(シルヴァニア)》をナギにむけて構えた。


「おい、何をしている……」


 ナギが、信じられないような気持ちで問うた。

 


 

 


勇者エヴァンゼリンたちは、カエサルを包囲して、波状攻撃を仕掛けていた。


 エヴァンゼリンが、聖剣を横薙ぎに振った。


 カエサルは、その斬撃を後ろにバックステップしてかわして、剣でエヴァンゼリンを刺突する。


 そのカエサルの刺突を、槍聖クラウディアが槍で弾き返す。


 エヴァンゼリンは聖剣で、クラウディアは聖槍で、カエサルを攻撃する。


 右、左、下、横、斜め、上、右、左、左、下。


 あらゆる角度から、エヴァンゼリンとクラウディアの聖剣と聖槍の斬撃と刺突がカエサルを襲

う。


 カエサルは、2人の猛攻をかわし、剣で弾き返す。


『天蓋(ソリオス)の速力(グリゴラ)』で速力が、ドンドン向上していき、カエサルのスピード

はエヴァンゼリンとクラウディアを凌いでた。


「エヴァンゼリン、クラウディア!」


 大精霊レイヴィアが、叫んだ。


 その一言で全てを了解して、エヴァンゼリンとクラウディアはその場を離れた。


 大精霊レイヴィアと、大魔導師アンリエッタの魔法がカエサルめがけて襲いかかる。


 大精霊レイヴィアは、〈氷竜(アルケディアス)〉の魔法を放った。 大魔導師アンリエッタは、カエサルを中心として、球形の結界障壁魔法をはって、カエサルを閉じ込める。


 大魔導師アンリエッタが、結界障壁魔法をはったのは、一つにはカエサルを逃さない為、いかにカエサルでも大魔導師アンリエッタの魔法障壁はそう簡単には破れない。さながら、カエサルは虫カゴに入れられた虫とかす。


 二つ目は、強大過ぎる大精霊レイヴィアの超位魔法で、仲間に被害が出ないようにするためだ。


 巨大な魔法陣とともに〈氷竜(アルケディアス)〉が発動する。


 大精霊レイヴィアの最強攻撃魔法の一つ。


 氷の竜を顕現して、冷気で大気を埋め尽くす。


 絶対零度のm、−273.15 ℃まで気温を下げて、原子の振動を最低レベルにまで引き下げ、全てを

氷結して凍てつかせる。


 絶対零度になった時、敵は分子結合が出来なくなり消滅する。


 その凶悪無比な超位魔法を大精霊レイヴィアは、カエサルにむけて放った。

 

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