第69話 死闘

ハーゲンディは王都アリアドネの北20キロの場所で槍聖クラウディアと激しい戦闘を繰り広げていた。


「アハハハァアアアアアアアアアア!」


幼女の姿をしたハーゲンディは狂ったように哄笑し、魔力を纏った拳と足をクラウディアに叩き付けた。ハーゲンディの殴打と蹴りが雷撃のような速さでクラウディアに襲いかかる。


クラウディアは槍でそれを防ぎ止めていく。


ハーゲンディの攻撃もクラウディアの槍さばきも尋常ではなかった。数秒で数百の攻撃と防御が展開し、打撃音と火花が空間に弾ける。


「シィっ!」


クラウディアが気合いとともに槍を刺突した。ハーゲンディが後方にトンボ返りしてそれを避ける。


「さっさと人間の姿を捨てて正体を現したらどうだ? 化け物」


クラウディアが、10メートル先に立つハーゲンディに薄青の瞳をむけた。


「やすい挑発だね~。でもまあ良いよ。のってあげる~」


幼女の姿をしたハーゲンディから禍々しい黒い光が迸った。




◆◆◆◆◆◆




大精霊レイヴィアは王都アリアドネを攻める魔神軍を上空から見下ろしていた。


王都アリアドネに5万をこえるモンスターが入り込み殺戮と流血の宴を催している。


破壊と劫掠を楽しむモンスターどもにたいしレイヴィアは熾烈な視線を投じた。


「穢らわしいモンスターどもめ……」


 レイヴィアは魔力を練った。天地に内在する魔力がレイヴィアの小柄な身体に集結していく。やがてレイヴィアの周囲に曼荼羅のような積層型立体魔法陣が展開した。


「地獄へ帰るがよい!」


 レイヴィアの展開した魔法陣から、数百万の氷の矢が吹き荒れた。閃光に等しい速度で氷の矢がモンスターめがけてミサイルのように降り注ぐ。


 天空から降り注ぐ無数の氷の矢が王都アリアドネに侵入したモンスター

の群れを貫き、貫いた刹那に凍らせていく。


 氷の矢が、次々と誘導型ミサイルのように飛んでモンスター達を的確に打ち抜く。


 モンスターを貫く氷の矢の衝撃音が王都アリアドネ全体を爆轟でゆらした。あまりにも圧倒的な現象にモンスターだけでなく、王都の兵士、市民さえも恐怖する。


 一瞬で5万体のモンスターが即死し、その死骸が氷の彫像とかした。

 天変地異のごとき恐るべき光景。


兵士と市民は突如として生命を失い氷の彫像とかしたモンスター達を茫然と見やった。


レイヴィアが、パチリと指をならした。その瞬間、氷漬けのモンスター

達が粉微塵に砕け、美しい氷の粉末とかして空中に散って消えた。


動揺と衝撃がモンスター達の中に走り抜けた。


王都アリアドネを包囲する15万のモンスター達が恐慌をきたす。王都アリアドネに対する魔神軍の攻撃が停止した。


「……さて、罪劫王たちはどうかのう?」


レイヴィアは桜金色(ピンク・ブロンド)の長髪を片手でかきあげた。風が吹いた。冷たい風だ、とレイヴィアは思った。



◆◆◆◆◆◆



イポスとブネは本体を現して大魔道士アンリエッタと闘っていた。


イポスは巨大な黒いカラス。ブネは体長30メートルほどのドラゴンとなっている。


イポスとブネ、大魔道士アンリエッタは上空1キロで飛行しつつ魔法と攻撃を打ち合っていた。


「このくそガキが!」


 黒いカラスとかしたイポスは全身から血を吹き出しながら喚いた。イポスが投じる風魔法が大魔道士アンリエッタによって全てはじき返される。


 どの魔法を放っても全て無効化され、アンリエッタの攻撃魔法のみを一方的に喰らい、ダメージを重ね続けた。


 ブネも同様であり、ドラゴンと化した彼の巨体は全身に夥しい傷がつけれている。一国を1時間で灰燼に帰す程の戦闘能力を有するイポスとブネが、白髪の少女に傷1つつけられない。


「なんなのだ。この小娘は!」


 イポスとブネはアンリエッタに憎悪と、それと同等の恐怖の視線を送った。罪劫王である自分達二人を一方的に追い詰めている。


たかが人間にこんな魔力があるなど信じられない。


いや、人間にこんな膨大な魔力がある筈がない。


「貴様は一体何者だ!」


イポスが叫んだ。


「……白髪の可愛い女の子」


アンリエッタがぽつりと呟いた。


「?」


イポスとブネは、茫然とした表情を浮かべて沈黙した。


アンリエッタは俯いて頬を染めると、少しだけ大きな声を出した。


「……風よ。全てを消し去れ!」


アンリエッタの言葉と同時にイポスとブネの身体が風の球体で覆われた。


『墳墓(タポシュ)の風球(アエラ)』


球体の結界で敵を包み込み、数十万の風の刃と高濃度の大気圧で切り裂き、押し潰す魔法。


イポスとブネは悲鳴をあげる間もなく、全身を切り裂かれ押し潰されて即死した。


アンリエッタは死骸を火炎魔法で焼却すると、大地に降り立った。

ふと周囲を見回す。


周囲3キロ四方に人影がないことを確認すると安堵の吐息を出した。


「……良かった。誰もいない……」


(……白髪の可愛い女の子……)


先程、イポスとブネに言った台詞を思い出し、唇をムニムニとさせて黒い帽子を目深にかぶった。


「……恥ずかしい……」


人とうまく話せるようになりたい。いつも、意思疎通がうまく行かずに対人関係に失敗してしまう。


しかし、罪劫王相手に会話の練習をしたのはよくなかった。所詮はモンスター、会話の練習には適さない……。










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