第68話 罪劫王
イポスは、ハーゲンディとレラジュを面白そうに見やって含み笑いをもらした。
(この愚物どもが……)
バアルは心中で吐き捨てた。こいつらの程度の低さには毎回辟易させられる。まるで玩具をほしがる幼児だ。下手をするとここでこいつらと殺し合うハメになる。
バアルは舌打ちすると王城に顔をむけた。
「では卿らにゲームを提案しよう」
「ゲーム?」
ハーゲンディが愛らしい幼女の姿で首を傾げる。
「イシュトヴァーン王の愛娘パンドラ王女が地下の抜け道から脱出しようとしている」
バアルが告げると首を絞められているイシュトヴァーン王が呻いた。
「パンドラ王女?」
「そうだ。この王国の王位継承権第1位の重要人物だ。相当な使い手だぞ?」
「本当?」
ハーゲンディが目を輝かせる。
「ああ、すでに地下道を通って逃げる最中だ。最精鋭の近衛兵とともに逃亡している。少しは手応えがあるだろう」
「いいね~。じゃあ、お姫様と遊ぼうかな~」
「……ふむ。ここにいるよりは余興になるやも知れぬ」
ハーゲンディとレラジュが王城に身体をむけた。
「言っておくがパンドラ王女を殺すなよ。我らが主に献上し、魂を奪わねばならぬ。王族の魂は稀少だ。殺せば我らが主に対する謀反と心得よ」
バアルが注意を喚起する。
「主の命令に背きはせぬ」
レラジュが答えた。
「だけど、怪我は良いんでしょ? 腕と足をもぐとか、目玉を抉るとかさ~?」
「それは構わん。だが衰弱死せぬようにしろ。治癒魔法を存分にかけるんだな。人間は死にやすい」
ハーゲンディの問いにバアルが静かに返答する。
(止めてくれ!)
イシュトヴァーン王が心中で叫んだ。喉をバアルに抑えられて声がでない。身動きすらできない。
苦悶の呻きを漏らしながら只管に胸中で、止めてくれ、と叫び続ける。
「『止めてくれ』か……。人間の思考は何故、常変わらず定型どおりなのだ? 10万を超える人間の心を読んだが、いつも似たようなことしか心の中で吐露せぬ。つまらぬ……」
バアルはイシュトヴァーン王に顔を近づけた。イシュトヴァーン王は恐怖で目を見開いた。
(間違いない。……こいつ人の心を……)
イシュトヴァーン王が、バアルの能力に気付き呻いた。こいつは人の心を読む!
呻くイシュトヴァーン王を尻目に、ハーゲンディとレラジュが王城めがけて移動しようとした。
その刹那、白い閃光が弾けた。
膨大な光量が、5人の罪劫王とイシュトヴァーン王を包み込む。大魔道士アンリエッタの放った強制転移魔法だった。
「ぬぅ!」
バアル、レラジュ、イポス、ブネ、ハーゲンディ、そしてイシュトヴァーン王の身体が一瞬で移動する。
(強制転移魔法か!)
バアルはイシュトヴァーン王を捕まえたまま空間を移動させられた。
大魔道士アンリエッタの放った強制転移魔法は、バアルをして驚愕せしめるものだった。圧倒的な魔力と強制力、そして速度。全てが強大かつ狡知だった。
バアルは気がつくとイシュトヴァーン王もろとも王都アリアドネの東20キロの地点に移動させられていた。
そこには灰金色の髪と灰色の瞳をもつ少女がいた。灰色の鎧に身を包み、手に聖剣を握りしめている。
勇者エヴァンゼリンが微笑を浮かべながらバアルを見据えていた。
「勇者エヴァンゼリンか」
少年の姿をしたバアルが双眸に殺意を込める。
「その通り、死んでもらうよ」
勇者エヴァンゼリンは腰を落として聖剣を晴眼に構えた。
「出来るかな?」
バアルはイシュトヴァーン王を放り投げ、エヴァンゼリンと対峙した。
◆◆◆◆◆◆
罪劫王レラジュは王都アリアドネの西20キロの地点にいた。
目の前には、相葉ナギ、セドナが武器を構えている。
「……人間ごときの転移魔法にかかるとはな……」
レラジュは舌打ちした。
レラジュは強制転移が人間どもの戦略だと看破していた。罪劫王を分散させ王都アリアドネから遠ざける。その上で罪劫王を一人一人を討ち取る。
「戦略としては悪くない」
人間の男性の姿をしたレラジュは相葉ナギ、セドナに視線を投じた。
「だが、この俺を倒せると思っているのか?」
レラジュの問いに、相葉ナギが答えた。
「当然だ」
相葉ナギが神剣〈斬華〉を、セドナが《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を構えた。
◆◆◆◆◆◆
イポスとブネは王都アリアドネの南20キロの場所でアンリエッタと対峙していた。
イポスとブネは目の前にいる白い髪と赤瞳をもつ少女が大魔道士アンリエッタだと気付いた。勇者エヴァンゼリンのパーティーメンバーの顔と名前は魔神軍に知れ渡っている。
「……想像以上に小さいお嬢ちゃんだねぇ」
「ああ、十二歳ほどの子供にしか見えぬ」
イポスとブネは嘲弄した。
大魔道士アンリエッタは静かに魔法の杖を構えた。
「先に感謝しておくよ。私はとても退屈していのさ」
「俺もだ。大魔道士アンリエッタよ。お前と遊ぶのは楽しそうだ」
大魔道士アンリエッタは無言で魔力を込めた。
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