第63話 レイヴィア
城内の一室。
相葉ナギが目を覚ますと、セドナが黄金の瞳に涙をにじませた。
「ナギ様……」
「ああ、セドナ……か……」
ナギの視界が徐々に定まり、セドナの秀麗な顔を捉える。
「……心配しました……」
セドナがベッドの側で膝立ちになって心から安堵した表情を出した。
ナギは6日間も意識を失っていたのだ。
「ナギよ。セドナによく礼を言えよ。そなたを心配して、この6日間、ろくに寝ずに看病しとったんじゃからの」
レイヴィアが言った。
ナギは眼を瞬かせて、レイヴィアを見る。
外見は14歳前後。
長い桜金色(ピンク・ブロンド)の髪に、桜色の瞳。
桜金色(ピンク・ブロンド)の髪はツインテールにしており、彫刻のように整った顔立ちをしている。
灰色を基調として各処を銀で装飾された司祭のような服を着ている。服は露出が多く、胸元が大きく開け、へそは丸見え。スカートの丈はやたらと短く、すぐに下着が見えそうな出で立ちだ。
ナギはレイヴィアに黒瞳を投じた。
「どこのどちら様ですか?」
「レイヴィアじゃ! 大精霊のレイヴィア様じゃ! 忘れたのか!」
「おや、レイヴィア様。まだ生きてたんですか?」
「死んでおらんわ! 今まで死んだことなど一度も無い!」
「いやぁ~。最近は、夢の中でしか会っていないので、もう死んだキャラになったのかと思ってました」
「勝手に殺すな! なんて失礼なガキじゃ!」
「どうしているんですか? 成仏出来ずに迷いましたか?」
ナギが問うと、レイヴィアは地団駄を踏んだ。
「お前がダンタリオンを倒してレベルアップしたから、こうして現世に復活したんじゃ!」
「ああ、ゾンビが復活みたいな感じですか?」
「ゾンビじゃないわ!」
レイヴィアが怒りのあまり、ナギの腹部に拳を振り下ろした。毛布の上から腹部に打撃を受けて、ナギは悶絶した。
「レイヴィア様。ナギ様はまだ病み上がりですから……」
セドナがナギを庇うように立つ。
「……むぅ……。仕方ないのう……」
レイヴィアは不承不承引き下がった。
「ナギ様が意識不明の間にレイヴィア様が現世に復活なされたのです。これからはレイヴィア様も私達とともにいて下さるそうですよ。冒険が楽になります」
セドナが嬉しそうにナギに説明する。
「そうか。良かった……。頼もしいです。頼りにしてますよ、レイヴィア様」
ナギがそう言うと、レイヴィアは肩をすくめた。
「最初からそういう態度にならんか」
レイヴィアは肩をすくませた。
その時、ドアをノックする音がした。
ナギとセドナが返事をすると、勇者エヴァンゼリン、大魔道士アンリエッタ、槍聖クラウディアが、室内に入った。
エヴァンゼリンとセドナとレイヴィアが仲良く話をしている。
いつの間にか、仲良くなっていたらしい。
「ナギ君、お目覚めのようだね」
エヴァンゼリンが快活な笑みを見せた。
「……回復おめでとう」
「うむ。無事で何よりだ」
アンリエッタが呟き、クラウディアが破顔した。
「どうも……」
ナギは起き上がろうとしたが、身体に力が入らず半身を浮かせることも出来ない。
「無理しなくていい。もう少しゆっくりしたほうが良いよ」
エヴァンゼリンがナギに優しく言う。
「……ごめん。寝たままで失礼するよ」
「いいさ。それよりナギ君、ダンタリオンの討伐お見事。君は大した奴だ」
灰金色の髪の少女が言うと、アンリエッタとクラウディアも首肯した。
「……見た目によらず強い……」
「十二罪劫王を倒せる人間など大陸中を探しても五人といまい。尊敬に値するぞ」
「いや、大袈裟だよ」
ナギは照れた。
「大袈裟ではない。君は英雄だ。これは比喩でも、お世辞でもなく、事実なのだ」
クラウディアが真面目な顔で言う。
「……英雄?」
地球生まれのナギにとって、英雄という言葉はどうもピンとこない。
「君は凄い人間で、有名人ってことさ」
エヴァンゼリンがからかうような声で言う。
「既にヘルベティア王国の国王イシュトヴァーン王を始めとして、各国の君主から賞賛の言葉が贈られている。近々、ヴェルディ伯爵が祝賀の席を設けるそうだ」
クラウディアが、我がことのように嬉しげに言った。
「……主役は貴方……」
大魔道士アンリエッタが、ナギを指さす。
「……俺が?」
ナギが眼をぱちくりをさせる。
「そうだ。君が全快になり次第、祝賀会が催されるだろう。早くよくなりたまえ」
「じゃ、またね。ナギ君」
エヴァンゼリンが、クラウディアとアンリエッタとともに部屋から辞去した。
ナギはベッドにうつ伏せになったまま、困惑したような顔をした。
「……英雄……か……」
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