第51話 保護
ナギは地下牢獄から、検事達がいる検察庁に移送された。
ナギ、勇者エヴァンゼリン、大魔道士アンリエッタは、応接室で待機した。
やがて検察庁長官が、応接室にきた。
「検察庁長官のフィガロ・ダインと申します」
フィガロ長官は、挨拶をするとナギ、勇者エヴァンゼリン、大魔道士ア
ンリエッタに対して、長広舌をふるった。
要約すると、相葉ナギの釈放を認めるのにやぶさかではないが、警察と検察のメンツがある。
相葉ナギを釈放するにあたって、某かの保証をもらいたい。という空疎かつ、愚昧なものだった。
「……保証ですか」
勇者エヴァンゼリンが苦笑した。苦い笑いには皮肉な陰影がたゆたっている。
「分かりました。では僕が相葉ナギの保証人となりましょう。もし、相葉ナギが、無辜の民を害する悪党ならば、僕の手で処断します」
勇者エヴァンゼリンは、自分を「僕」と言った。男装の麗人のようで、すげー似合っている、とナギは思った。
「ええ、それはありがたい」
検察庁長官は露骨な回答をした。
「今ひとつ、相葉ナギが、正義。つまり我ら人類の味方であるという保証が欲しいのですが?」
「……なら、〈幻妖の迷宮〉に行かせる?」
大魔道士アンリエッタが、人形のような口調で言った。
「なるほどね。僕たちと一緒に〈幻妖の迷宮〉に行って、魔神軍と戦うなら、最高の証明になるだろうね」
勇者エヴァンゼリンが組んだ足の膝を手で打った。
「それならば、安心ですな!」
検察庁長官が嬉しそうに破顔した。責任を回避できるならば、これほど嬉しい話はない。官僚にとって一番怖いのは、責任を取ることだ。
「では、勇者エヴァンゼリン様の責任と保証がある、という点を考慮して、相葉ナギを無罪とし、釈放致します……。相葉ナギ
検察庁長官は、ナギに深々と頭を下げた。頭が床につきそうなほど……。
勇者エヴァンゼリンの保護観察下に置かれるという条件で、相葉ナギは釈放された。
釈放されるとナギは安堵でほお~、と大きな息を吐き出した。
(怖かった……)
魔神軍の恐ろしさを実感した。なんていう恐ろしい連中だ。
俺は勇者エヴァンゼリンと大魔道士アンリエッタにむけて頭を下げた。
「エヴァンゼリンさん、アンリエッタさん。ありがとうございました。……本気で処刑されるところでした……」
「礼を言う必要はないよ。有為な人材を死なせずにすんで嬉しいかぎりさ」
エヴァンゼリンは軽く手をふった。
「……強い者。大事。戦力は多い方が良い」
アンリエッタが、無機質な声で言う。
その時、声が響いた。
「ナギ様!」
声がした方を振り向くと、セドナがこちらに駆けてくる。
セドナが俺の胸に飛び込んだ。
そして俺の腰に抱きつく。
「……心配かけてゴメン……」
俺が詫びるとセドナは顔をあげた。
「……本当に心配しました……」
セドナの黄金の瞳が涙で濡れていた。セドナはいつも通り、警察署の牢獄に差し入れにきてくれたそうだ。
セドナは毎日、俺のために牢獄に差し入れをしてくれていた。そして警察官に検察庁に移送されたことを聞いたそうだ。
俺はセドナに勇者エヴァンゼリンと大魔道士アンリエッタの助力で、無罪放免になったことを説明した。
「ありがとうございます……。エヴァンゼリン様、アンリエッタ様……」
セドナが涙ながらに礼を言う。
灰金色の髪の美少女は、
「たいしたことじゃないさ」
と言い。
白髪の大魔道士は、
「……当然のこと、しただけ」
と呟いた。
「さて、じゃあ悪いけど相葉ナギ君。君は僕と一緒に〈幻妖の迷宮〉に行ってもらうよ。早速、作戦会議に出てもらおうかな」
エヴァンゼリンが、綺麗な笑みを浮かべた。
ナギとセドナは勇者エヴァンゼリンに連れられて城内の会議室に通された。
ヴェルディ伯爵は、ナギとセドナを好意的に迎えた。戦力は多い方が良く、グシオン公爵を倒した程の手練れならば役に立つと彼は判断した。
「グシオン公爵を倒すとはな。若いのに大したものだ。相葉ナギ君、セドナ君、君らの活躍多いに期待しているよ」
ヴェルディ伯爵は鷹揚に賛辞を送る。褒めれば人は動く。そして褒めるのは無料(ただ)であることをヴェルディ伯爵は知っていた。
ナギとセドナは恐縮し、一礼して謝した。
「さて、では〈幻妖の迷宮〉侵攻作戦を纏めましょうかな」
ヴェルディ伯爵が、会議室の中央にある地図を示した。
〈幻妖の迷宮〉侵攻作戦の編成はすでに整っていた。
ヘルベティア王国軍 正規兵8362名
冒険者(志願制) 187名。
総司令官 勇者エヴァンゼリン
副司令官 ヴェルディ伯爵。
軍事参謀総長 大魔道士アンリエッタ
軍事顧問 槍聖クラウディア・フォン・ベルリオーズ
討伐目標は、〈幻妖の迷宮〉の主、十二罪劫王の1人、ダンタリオン。
「今更、いうまでもなくダンタリオンは強敵です。〈剣鬼〉の異名を持ち、その剣技は魔神軍随一と称されている」
ヴェルディ伯爵は、一度言葉を切った。少し芝居がかった態度だが文句を言う者はいない。
「だが、我らには勇者エヴァンゼリン殿がいる。我らの勝利に疑いない。〈幻妖の迷宮〉を灰燼に帰し、ダンタリオンを討ち取ること万に一つの疑いもなし!」
居並ぶ軍人達が一斉に、「おう!」と吼えた。
ヴェルディ伯爵は胸に手を当てた。
「2日後に〈幻妖の迷宮〉にむけて進軍を開始する。我らに神々の恩寵あらんことを!」
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