第49話 雷鳴槍《らいめいそう》
ナギはふと《
敵はグシオンだけではない。
まだ大勢いる。《
だからこそ、《
(……だが使わないと、このままでは確実に殺される。やるしかない)
ナギの双眸が光った。同時にナギの全身から神力が吹き上がる。
ナギは跳ね起きると同時に、グシオンに逆袈裟を放った。
光速の一閃がグシオンの棍棒を切断し、グシオンの分厚い胸部を切り裂いた。
「ガアアアアアアアアアっ!」
グシオンが叫んだ。
何が起きた? この小僧は何をした?
ナギは電光のような速度でグシオンの懐に潜り込み、数十の斬撃を叩き込んだ。
一瞬でグシオンの胸、腹、足、肩、腕が切り裂かれ、血が奔流のようにグシオンの体から吹き出る。
グシオンが悲鳴をあげた。何が起きたのかすら分からない。
悪魔の公爵がよろめいた刹那、ナギの体が砲弾のように吶喊した。
〈津軽真刀流奥義:
体ごとぶつかり、全身の力を一点に集約させて刺突する。その威力は鉄製の具足を貫通する。それが神力によって増幅され、数千倍の威力を発揮した。
ナギはグシオンの腹部を〈斬華〉で貫通させたまま後方に10メートル以上吹き飛ばした。そのままナギはグシオンを民家の壁に縫い付ける。
神剣・〈斬華〉がグシオンの急所を深く抉った。
同時にナギは〈斬華〉を手で捻りこんで動かし、グシオンの内臓を破壊する。
「……ふ……ふふ、えげつないですね~。致命傷を与えても……まだ止めを幾重にも、……くわえるとは……」
グシオンの口から血が溢れ出た。
「……見事、です……」
グシオンの体が小さくなってきた。ナギと同じ程度の身長に戻る。
ナギは油断なくグシオンの腹に突き刺した〈斬華〉を握る。
「……私の負けのようですね……。……最後に名前を教えて頂けませんか?」
ナギは数瞬、迷った。だが、最後だ。名前くらいは言ってやりたい、と思った。
「相葉ナギ」
「相葉……ナギ、見事。まことに……見事、……です……」
グシオンは賞賛しながら思う。
(この少年、……危険すぎる……)
あまりにも危険だ。グシオンの本能が全力で警鐘を鳴らしていた。
相葉ナギの突如のパワーアップ。あれは一体どういうことだ?
あの神力の爆発的な膨張。
圧倒的な戦闘力。まさか、公爵である自分を一方的に打ち負かすとは……。
くわえて、この卓抜した剣技……。
グシオンはナギを見据えた。少女のような柔弱な顔。おそらくはまだ16,17歳ほどだろう。
未だ成長途上にある。これ以上、強くなるとしたら、一体どれほどの存在になる?
(この少年は……相葉ナギは、排除する……)
人間に殺させる。
グシオンの目が狡猾に光った。
「相葉ナギよ。悪いですが、死んでもらいます……」
グシオンの言葉にナギは恐怖し、〈斬華〉を引き抜いて後退しようとした。だがグシオンはナギの手を掴んだ。
「……この、グシオンの奸智を堪能……して下さ……い……」
グシオンは狂笑した。おぞましい笑いがナギの耳朶を打つ。
ふいにグシオンの体が光り、変質した。
ナギは、また巨体化するのかと思った。
だが、予想に反してグシオンはうら若い女性の姿に変わった。
グシオンは8歳前後の美しい少女の姿になった。同時にグシオンは絶命して目を閉じた。
ナギはあまりのことに仰天して固まった。次の刹那、グシオンの奸智の正体を知って戦慄した。
「貴様、何をしている!」
古都ベルンの衛兵が、ナギにむかって叫んだ。
衛兵が笛を吹き鳴らし、仲間を呼ぶ。
あっと言う間に、十数名の衛兵が槍をかざしてナギを包囲した。
「少女をはなせ!」
衛兵が殺気だって、ナギに槍をむける。
「なんていう奴だ。あのような年端のいかない少女を……」
「ケダモノめ!」
衛兵達は義憤にかられてナギを睨む。
衛兵達の目に映るのは、8歳ほどの少女の腹部を刺し、壁に縫い付けているナギの姿だった。
ナギは顔面を蒼白にさせた。
(まずい。セドナを巻き込ませるわけにはいかない!)
セドナの姿を探す。だが、セドナは地面に俯せに倒れていた。グシオンの放った衝撃波で気絶していたのだ。
(良かった……。セドナは無関係だと言い張れる……)
ナギはわずかに安堵した。
ふいにナギの視界が暗くなった。
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『 《
《
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メニュー画面の声が響く。
ナギは神剣・〈斬華〉をグシオンの腹から引き抜き、鞘にしまった。直後、体から力が消失し、その場に崩れ落ちて、気絶した。
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