第47話 グシオン公爵
相葉ナギとセドナは、タコスを食べ終わると祭りを見て回った。ただ通りを歩くだけで祭りというのは楽しい。
アチコチで大道芸や、芝居をしている。
人形劇では、人形が魔法で自動的に動いていた。糸がない人形劇など初めてだ。
セドナは人形劇が気に入ったようで、食い入るように見ていた。終わると割れんばかりの拍手をする。
「セドナって、芝居が好きなのか?」
「はい。すごく好きです」
「この世界は、どんな芝居があるんだ?」
「有名なのですと『タンホイザー』などがあります」
「へ~『タンホイザー』ね。あれ?」
何か聞いたことがあるような、ないような?
ナギが首を捻った時、古都ベルン全域に警報が鳴り響いた。民衆が、恐怖して顔を強張らせる
『こちら冒険者ギルドです。魔神軍が襲来しました。即座に秩序を保ちながら待避して下さい』
冒険者ギルドの受付嬢エミリアの声が魔法でベルン中に拡散される。
民衆が叫びだし、我先に逃亡しだした。屋内に退避していく。
『繰り返します。魔神軍が襲来しました。即座に秩序を保ちながら待避して下さい。冒険者および戦闘可能な人員は臨戦態勢を整えて下さい』
「魔神軍? どこにいる?」
ナギは周囲を見渡した。腰にさげた〈斬華〉の柄に手を添える。
「ナギ様、上を!」
セドナが空を見上げた。
ナギがセドナの視線を追う。
ナギの視界にグシオン公爵の姿が映し出された。
十二罪劫王の1人、ダンタリオンの配下・グシオン公爵が空に滞空している。
猿と人間が融合したような顔。コウモリのような羽を背に生やし、仕立ての良いスーツを着込んでいる。
ふいにナギの体に戦慄が走った。
上空に浮遊する悪魔が、尋常ではない戦力を有していることを一目で見抜いたからだ。
◆◇◆◇◆◇
グシオン公爵は、古都ベルンの上空500メートルの場所で滞空していた。
部下である50体のモンスターが後ろに控えている。
「グシオン公爵閣下。古都ベルンには魔法障壁が、かけられております」
部下の1人が、進言した。
「分かっていますよ」
グシオン公爵は舌打ちした。
(小賢しいですが有効ですね。我ら悪魔の侵入を完全に防ぐとは……)
古都ベルンを覆うようにドーム状の魔法障壁が張られていた。
この魔法障壁を破らない限り、古都ベルンに侵攻できない。
「仕方ない。魔力を随分と減らしてしまいますが……」
グシオン公爵は、右手を高々と上げた。
その右手に高濃度の魔力が収束され、光球が形成されていく。
大気が鳴動し、放電現象がおきる。
「
グシオン公爵が詠唱した。その右手を勢いよく振り下げる。
光球が飛翔し、魔法障壁に激突した。
水晶を打ち砕くよな轟音が爆ぜた。
魔法障壁に当たった光球が、魔法障壁を、粉微塵に砕く。
古都ベルンの人間達が絶望の悲鳴をあげた。
グシオン公爵は舌打ちした。すでに魔力を4割も減らしてしまった。
「よいですか、お前達。事前の打ち合わせ通り、人間どもを虐殺して勇者エヴァンゼリンを誘き寄せなさい」
配下の悪魔とモンスターが奇怪な声で返答し、古都ベルンにむかって降下していく。
「さて、私も遊びましょうか」
グシオン公爵は猿と人間が混ざった醜悪な顔を歪めた。
電撃の槍を魔力で形成し、古都ベルンの中心部にむかって落とした。
◆◇◆◇
ナギは、グシオン公爵を見上げていた。
端正な顔が緊張で強張る。
刹那、グシオン公爵の周囲に電撃の槍が形成されていくのを見た。
まずい!
「ここから離れろ!」
ナギが叫んだ。民衆がまだ待避を終えていない。
次の瞬間、グシオン公爵の強大な魔力を込めた電撃の槍が、空から降り注いだ。
ナギとセドナが庇う時間すらなかった。
一瞬で電撃の槍が、民衆に激突した。
人間の体が電撃の槍で貫かれ、爆発して吹き飛ばされる。
内蔵が飛び散り、脳が吹き飛び、血が霧となって飛散する。
街路は地獄とかした。
死骸となった人間が横たわり、負傷した人間達が呻き苦しむ。
電撃の槍があたらなかった人間も恐怖でパニックを起こして逃げ惑う。
ナギの周囲半径100メートルにいる人間の3割が死傷した。ナギの黒瞳の瞳孔が開く。激烈な怒りがナギの胸中に荒れ狂う。
◆◇◆◇
グシオン公爵は、神力の気配を感じた。忌々しい神どもの匂いがする。
気配をたどるとナギとセドナが、グシオン公爵の視界に入った。
(……ほう、冒険者ですか……)
1人は黒髪黒瞳の少年、1人はシルヴァン・エルフの少女。
間違いない。神力はあの2人の子供から感じる。
(早めに殺しておいた方が良いでしょう)
神と関係をもつものは、後々厄介な敵になることが多い。グシオン公爵はナギとセドナの殺害を決意した。
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