第5話 大精霊レイヴィア

ナギとレイヴィア婆さんは、宿屋の部屋に入った。清潔なベッドが1つ。さらに椅子と円卓がある。 風呂とトイレも付いていた。

 ナギはレイヴィア婆さんをベッドにそっと降ろした。その後、ナギは大きく息を吐き出して椅子にどかりと腰を下ろした。


「疲れた……」

 

とナギは無意識に呟いた。

 

 宿に着いて一安心した所で緊張がとけ、一気に肉体的精神的な疲労が吹き出した。体中が筋肉痛で痛み出す。今まで色んなことがありすぎた。一時間ばかりゆっくりしたい。

 

「すまんのぅ、ナギ。悪いがゆっくりさせてやる時間はないんじゃよ」


 レイヴィアが凜然とした声で言うと、レイヴィアの全身が光に包まれた。ナギは眩い光に思わず目を細めた。

 光が収まると同時に、レイヴィアの姿が14歳前後の少女の姿に変化していた。

 桜金色ピンクブロンドの長く艶やかな髪が腰まで流れている。

彫刻のような芸術美をしめす端麗な顔。桜色の瞳には、強い意志と活力が漲り思わずナギは気圧された。均整のとれた細身な体に、灰色を基調とし各処を銀で装飾された服をまとっている。

 

やたらと露出の多い服で大きな胸元が開け、へそが丸見え。スカートは短く少しでもめくれたら下着が見えそうな服だ。老婆の姿から美しい少女の姿に形を変えたレイヴィアは、ベッドの上に流麗な仕草で立った。


「まず、心から礼を言う。よくぞワシをここまで運んでくれた。ワシの名は大精霊レイヴィア。大いなる『原初の精霊の一人』。

 来訪者・相葉ナギよ。そなたをおとこと見込んで頼みがある、我がいとし子『セドナ』を守って欲しい」


 ナギは驚愕のあまり硬直した。そんなナギに向けて大精霊レイヴィアは訥々と語り出した。大精霊レイヴィアの頼みとは奴隷となっている『セドナ』という者を奴隷商人から保護して欲しい、というものだった。


「なぜ、僕に?」


 とナギが問うた。


「1つにはワシは現在弱体化しており、力が衰えておる上に長時間現世に具現化することができん。

 2つめにそなたは誠実じゃ、そなたならば我が愛し子セドナを粗略に扱うことはあるまい。庇護してもらえる人間を捜し回っていたが、世の中邪悪な人間ばかりでの。

 そなたのような、お人好し……いや、善良な人間は中々おらん。ワシの愛し子セドナを奴隷にして、虐待したりするような奴では困るからのぉ」


 お人好し、と言われたことはスルーしておこう。世の中鈍感力が必要だ。


「もちろん、そなたにも利益があるぞ。まず1つ。ワシが、そなたの守護精霊となってやろう」

  

「守護精霊? 守護精霊というのは?」

 

「文字通り守護する精霊のことじゃよ。セドナを保護してくれたらワシはそなたと誓約を交わして、そなたを命尽きるまで守護してやろう」


「つまり俺を守ってくれるということですか?」

 

 それは悪くない。異世界の知識が豊富なレイヴィア様が、味方になってくれるのはありがたい。俺はこの世界の文化も法律も常識も分からない上に知人さえもいない有様だ。異世界に味方が一人でもいるというのは心強い。


「あと、ワシにできることと言えば……そうじゃのう。……ほ、本来は、このようなことはしたくないのじゃが……」


 レイヴィア様は端麗な顔を僅かに染めると、モジモジと指をからめた。


「そ、その、少しくらいなら……。その、……エ、エッチなことをしてやるぞ。……あ、でも、ほんの少しだけじゃぞ? ワシはこれでも、貞淑じゃから……」


「いりません」


 俺は即答した。


「……0・1秒で即答したのう。ワシもさすがに傷つくぞ……」


レイヴィア様が複雑な表情を浮かべたが俺はごめんこうむる。婆さんだったレイヴィア様を見ているのだ。エッチなサービスとかされてもキモイだけだ。

老婆だった印象がとれないから、エッチなことをされても嬉しくない。


「そうじゃ、そうじゃ、他にも守護精霊として、そなたにある程度の恩寵をくれてやろう」


「恩寵とはなんですか?」


「特別なスゴイ能力と言った所かのぉ。まあ、貰ってからのお楽しみということで秘密にしておう……。どうじゃ、引き受けてくれるか?」


レイヴィア様が問う。どうするべきか? 俺は腕を組んで考え込んだ。

 利益はある。悪い話ではないと思う。それにレイヴィア様という人間、じゃなくて精霊は悪いことを企むようには見えない。

 

騙すならばもっと利益を強調するなり、


「言うことを聞かなければ魔法で呪いをかけるぞ」


と脅せばいいのだ。この世界の知識がない俺はそれが嘘だとしても易々と信じてしまうだろう。俺は膝を打って決断した。レイヴィア様を味方にするだけでも、この依頼はやる価値はある!


「引き受けます!」


「すまぬ。心から感謝するぞ」


 レイヴィア様が嬉しそうに微笑んだ。綺麗な笑顔だった。これで婆さんの時の姿を見てなければ惚れていたかもしれない。俺がそう思っていると、レイヴィア様の体が急に淡く光り出した。


「レイヴィア様?」


「案ずるな活動限界が来たようじゃ、まったく不自由なことじゃて……」


 レイヴィア様は自分の腕を見ながら舌打ちした。体が光の粒子となって少しづつ零れて消失していく。


「ナギよ。この金を……渡してお……く……」


レイヴィア様が、手品のように何もない空中から革袋を取り出して俺に手渡した。ズシリと重たい袋。硬貨が擦れ合う音がした。

 

「ワシは精神体となって……そなたを見守る。……少しは脳に声が届くじゃろう。ワシの言う店に行ってセドナを……保護して……くれ。頼……む……。そなただけ……が、頼り……。ワシは、必ず……また……姿を現す……から……」


レイヴィア様の体が消失した。



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