電信柱の話

蓬葉 yomoginoha

電信柱の話

宮科みやしな柳真りゅうま・・・16歳。まもなく17。

浜舞はままい光梨ひかり・・・16歳。まもなく17。





 昔、地方を回って生計を立てている人の男の子と、同じような家の女の子が、よく井戸の側で遊んでいた。

 成人してからはお互い恥ずかしくなって、すっかり遊ばなくなっていったけれど、男は女を妻に、女は男を夫にしたいと思っていた。

 親たちは別の人と結婚させようとしていたが、二人は言うことを聞かなかった。

 そんな中、男はこう歌った。


 筒井つついつの 井筒いづつにかけし まろがたけ 過ぎにけらしな いも見ざるまに


 女はこう返した。


 くらべこし ふりわけ髪も 肩すぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき


 こんなふうに文通をしているうちに、とうとう希望の通り、結婚した。


                       『伊勢いせ物語』 第二十三段






「男の和歌は、こういう意味です」

 国語教師が黒板に意味を記していく。


 井戸枠の高さに及ばなかった私の背丈せたけも、今はそれより高くなったでしょう。あなたに会わないでいるうちに。


いもというのは、[いもうと]という意味ではなくて、愛しい女性をさす言葉です。まろ、は一人称ですね。おじゃる丸とかそうでしょ? [けらし]というのは過去の助動詞[ける]と推定の助動詞[らし]が合体して[けらし]になっているものです。それからこの和歌は倒置とうちが使われているのも注目するところです。さ、返歌の方も見てみましょう」


 あなたとどちらが長いか比べていたおかっぱ髪も、今は肩を過ぎてしまうほどになりました。しかし、あなた以外、誰が私の髪上げをしてくださるでしょうか。


「ちょっと難しいですね。まず、[ふりわけ髪]というのはおかっぱみたいなものだと思ってくれればいいです。ようするにそんなに長くはないよっていうことですね。そんな髪の毛があなたに会えない内に肩を過ぎてしまったと言っているわけです。で、最後の[あぐべき]というのは、髪上げという儀式をおさえれば理解できます。これは、当時の女性の成人の儀でした。……うん? 何ですか? ああ、そうですそうです。裳着もぎと同じですね。よく出てきました。はい。で、この儀式は夫が決まってからするものなので、これもやはり男を敬愛していることがうかがえるわけです」


 じゃあみなさんちょっと読んでみましょう。


 教室中にリピートの声が響く。

 こんな大勢でうたわれることを前提にしている歌なのかどうかは、疑問だが。


 しかし、そんな中一人だけ、人一倍この話に興味を抱いた者がいた。

 もちろん、彼女はタイムスリップした人間でも、登場人物の生まれ変わりでもない。

「すごっ……」

 しかし、小さくそう呟いた彼女と作中の女との間には、ある共通点があったのだ。

 

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