考えるのは明るい未来
「くあぁ……やっぱそんなすぐには書き込みこねえなー……」
大きく欠伸をすると抄はネコのように伸びを始めた。
目からは涙が滲み出しており、まだまだ寝足りないという風体だ。
「お前今日一日中寝てたんじゃないのか?」
「いんや? タクが出かけた後すぐに起きた。で、部屋の掃除しといた」
「掃除?」
言われて部屋を見渡せば、確かに床の隅で大きく育っていた埃の塊が消え、そこら中に落ちていた髪の毛も消えている。
しかし棚の上やテレビの上には埃が積もっているので、抄の言う掃除とは床に掃除機をかけただけなのだろう。
「これから世話になるからな。掃除くらいは礼儀ってもんだろ」
「世話になるって、まさかここに住むつもりか?」
抄が家に泊まったことは一度や二度ではないが、長期間の滞在などしたことはない。
「こんな姿で実家に帰れないしな。女性の家を渡り歩くとかもしたことあるけど、この姿じゃそれはできないし……ホテルに連泊できるような金もないから、取れる手段としては……」
抄は少し考え込むと、ボクに向けて縋るような視線を向けた。
「な、なんだよ、その目は」
「俺に見ず知らずの男の家を渡り歩けって言うのか?」
「っ!」
少しだけその姿を想像してしまって、ボクは慌てて思考を切り替えた。
「そ、そこまでは言わないけどさ……。でも、ここに住むのだって簡単な話じゃないだろ」
一泊ならば問題はないが、住むとなると話は変わる。
居住スペース、生活費、そしてなにより抄の現在の姿だ。
今でさえまともに顔を見れないというのに住むだなんて……。
正直、親友相手に間違いが起こっても不思議じゃない。
「じゃあパパでも作れっていうのか? 余裕だぞ、この見た目だったら。お小遣いもらいまくれるだろうからな。お前がそうしろと言うなら、俺は嫌だけどそうせざるをえなくなるぞ」
「いやでも急に二人暮らしは……」
「安心しろ、ちゃんと家賃は払う。一日一揉みでどうだ?」
そう言って目の前の少女は胸を寄せて見せた。
ブカブカのシャツでは、肌を隠すどころか谷間がむしろ強調されているような気さえする。
「それじゃあボクがお前のパパじゃないか!」
「おいおいパパって呼んで欲しいのか? その年でオヤジ趣味とは童貞は恐ろしいな」
「ああもう、好きにしてくれ」
美人は三日で慣れると言うし、しばらく我慢すれば大丈夫だと信じるしかない。
慣れる前にボクが死んでる可能性もあるが。
「安心しろって。その内バイトでも始めて自立するから」
「せめてボクが死ぬ前に頼むよ」
「それはつまり、あと数十年はニート生活が楽しめるってことだな」
抄はいとも簡単にそう言ってみせた。
微塵も冗談を言っているような様子はない。
「……もしもボクが生き永らえたなら、それでもいいよ」
「よし、じゃあ明日はいっしょに出かけるか」
「どうしてそうなるんだよ!」
「どうせ大学に行くつもりなんてないんだろ? だったら家にいるより外に出た方がまだ有意義だ」
ショウの言うことも尤もらしくはある。
家で出来ることは大抵外でも出来るのだから、外で情報収集した方がいいかもしれない。
「でもどこに行くんだよ。神社とか寺とか、もしくは教会?」
「俺の服を買うのに付き合ってくれ」
ああ、この親友はなんて馬鹿らしいことを提案してくれるのだろう。
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