覚悟によって救えるもの
「じゃあさ、ボクが死ぬかわりに世界中の人間を幸せにするっていうのは?」
「お前にそんな価値はない。精々一人だ」
柄にもなく世界平和を願ったというのに、死ね神からの返答はなんとも辛辣なものであった。
ボクにそんな価値があると思っていたわけではないが、正面から断言されるのは少し心にクる。
「人のことゴミみたいに言うなよ」
「本来であれば死ぬだけで誰かを救うことなどできぬ。しかし決死の覚悟で人生を費やしたならば、一人は救えるであろう」
「つまり、もう余命が三日のボクにそんなことは無理だから、その前提を元に一人くらいは幸せにしてくれるってことか」
「死の覚悟とは、つまりはそういうことだ」
つまりどういうことなんだ。
「死の覚悟ね……お前はそればっかりだな」
「それこそが人生の真理である」
「……なんでお前にそんなことが言えるんだよ」
「答える必要はない」
「またそれか……」
遺言を問う理由はボクが哀れだから。
でもどんなに可哀想でも三日後には問答無用で殺す。
叶えられる願いは条件が厳しくてとても選べない。
これが死ね神から得られた情報。
意味がないとまでは言わないが、ボクが生き残ることには役立ちそうにない。
他に何か訊くべきことはないか。
何でもいい。
何がきっかけになるかなんてわからない。
そうやって必死に悩んでいたせいか、ドアの外の足音にボクは気づかなかった。
「っ!」
ガラガラと無遠慮に講義室の扉が開き、続けて数人の学生が雑談をしながら入ってきた。
死ね神はボクの目の前に留まっており、位置的にも学生たちから丸見えになっている。
まずい。
死ね神のような如何にもな不審者が見つかれば騒ぎになるのは免れないだろう。
場合によっては事情聴取やらでボクが拘束される可能性もある。
三日という期限がある以上、無駄なことに時間を使っている暇などないというのに。
「っ……?」
しかしボクの心配も余所に、学生たちは驚きの声を上げることも、死ね神に視線を向けることもなかった。
何事もないかのように席に座ると、談笑を続けている。
「……もしかしてお前、他の人間からは見えないのか?」
「然り」
本当にこの死ね神とかいうのは、どうでもいいところで都合の良い存在らしい。
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