立てられた証

「喧しい」


 骸骨が鎌の柄で床を叩いた。

 その衝撃で刃から血の雫が零れ落ちる。


「ぁっ! ふぅっ ……ぐ! あ、あぐ、うぅ……」


 静かにしたくても嗚咽は簡単には止まってはくれない。

 怒鳴られた子供のように、ボクは必死に涙を止めようと努力しながらも咽び泣いた。


「げほっ! うぐぅっ、ぁ、はぁ、うぅ……」

「……」


 必死の努力が功を奏したのか。

 それとも哀れと思われたのか。

 骸骨は鎌をボクに向けることはなく、友人の遺体へ向き直ると落ちていた頭を白い手で拾い上げた。


 どうするつもりなのか。

 まさかまだ友人に惨い仕打ちをするつもりなのか。

 そうだとしても、ボクには何もできない。

 大人しくしていようと殺されるとわかっていても、この骸骨に反抗する気力が少しも湧いてこない。


 必死に呼吸を整えながら挙動を窺っていると、骸骨はその手に持った頭を座り込んでいる首無し遺体の上にポンと置いた。


「…………え?」


 その意図も、意味も、なにもかもがわからない。


 積み木のように遺体の上に首を積んだところで、そんなことをしたって何が起こるって――


「うおおおぉぉっ! 俺死んだああぁぁぁっ!」

「……は?」


 それはありえないことだった。

 骸骨の出現もありえる事ではなかったが、これは殊更にありえない。


「あれ、生きてるっ?」

「な、なんで? し、ショウ? ショウなのか?」

「え、そ、そうだけ……ど? あれ、いま俺死ななかった?」


 友人の首は繋がっていた。

 その首に繋ぎ目は存在しない。

 触って確かめても、不自然な箇所はどこにもない。


 零れていた血の跡は床に染み付いていることから、ボクの見間違いではない。

 友人の首は一度落とされていることは確かで、ボクの目の前でうろたえているのが本物の友人だということも事実だった。


「私が殺し、そして蘇生させた」


 骸骨が重く低い声でショウに向かって話し出した。


 友人は生き返った。

 骸骨によって一度殺され、そして殺した張本人によって蘇生された。


 なぜだ。

 どうしてそんなことをこの骸骨はしたのか。


「答えよ。汝が死した時、痛みはあったか? 苦しみはあったか? 恐怖は感じたか?」

「え……? いや、そういうのは特に……一瞬すぎて、何も感じなかったけど……」


 友人の言葉を聞いた骸骨は、向き直ってその仮面をボクに向けた。


「この言葉を以て証とする。遺言を言え」

「……」


 言葉が出ない。

 安寧なる死を与えるという証明のために友人を殺し、そして蘇生したと、この骸骨は言っているのだ。


「む、無茶苦茶だ……」

「遺言を言え」


 この骸骨は異常だ。

 部屋に現れた方法も、友人を殺し蘇生したことも、どれも人知を超えている。


 でも、希望は見えた。

 この骸骨は理不尽ではあっても不条理ではない。

 その気になれば人を殺すのなんて一瞬で終わらせることができるのに、遺言とか死を拒む理由とかを訊いては、その返答に律儀に応じている。


「……」


 もしかしたら、ボクは生き延びることができるかもしれない。

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