死の間際、あなたは親友ですか?
@papporopueeee
プロローグ:日常が変革された日
遺言を言え
ソレは唐突に現れた。
安い賃貸の一室に。
フローリングから突然浮かび上がってきた。
「は?」
友人が驚愕の声を漏らす。
どうやらボクが幻覚を見ているわけではなく、ソレは確かにここに存在しているらしい。
ソレは黒いローブを羽織っている。
顔にはのっぺりとした白い仮面を着けており、中身がどうなっているかはわからない。
尤も、仮面を着けていなかったとしてもその表情を知ることはできないだろう。
ローブから伸びている腕、足。
そして布の隙間から見える胴体。
それらには皮膚が張り付いておらず、肉がこびりついておらず、ただただ白い骨が露出していた。
奇妙なその姿は、仮面を被った人間の骨の模型そのもので、単純にいえば骸骨だ。
表情なんてあるわけがない。
「……」
骸骨は声を発さず、ピクリとも動かず、ただその仮面をボクに向けている。
視線がないことによる圧迫感が苦しく、ボクは呼吸を繰り返すことしかできないでいる。
「お、お前、な、なんなんだっ?」
普段は女性人気の高い友人の顔も、焦りと恐怖のせいか見れたものじゃない。
きっとボクも同じような顔をしているのだろう。
「……遺言を言え」
その声はおよそ声帯を用いて発生されたものとは思えないほど低く、死の宣告と呼ぶにふさわしい重苦しさだった。
「……っ……え?」
かすれた呼吸に辛うじて音を乗せ、ボクはなんとか困惑を示した。
意味がわからない。
遺言とはどういうことなのか。
ボクはこれから死ぬのか。
お前はなんなんだ。
どうしてここに現れたのか。
心の内の動揺がどの程度伝わったのかはわからないが、骸骨はキシキシと骨で音を鳴らしながらその仮面をぐいっと近づけてきた。
「今からお前を殺す。遺言を言え」
先ほどよりも重厚で、明確な殺人宣告。
生存本能も機能しないほどの恐怖で、歯ががちがちと音を鳴らし始める。
それでもここでなにも言わなかったら本当に殺されてしまいそうで、ボクはなんとかその骸骨に言葉を返した。
「こ、殺すって、な、なんで?」
「理由を知る必要はない。遺言を言え」
「い、いやだっ……し、死にたくない」
「なぜ死を拒む?」
遺言でもなんでもないただの命乞いではあったが、骸骨の反応は予想よりも律儀なものだった。
問答無用にボクを殺すわけではないらしい。
もしかしたら助かるかもしれない。
わずかに見えた光明にすがりつくように、ボクは言葉を搾り出した。
「な、なんでって……し、死ぬのって痛そうだし、苦しそうだし、怖いし、だ、誰だって嫌だと思い、ます」
「では安寧なる死を約束しよう。遺言を言え」
「そ、そんなの信じられない!」
「……」
「あ、いや、その、す、すみません。う、疑ってるわけじゃなくて、えと……」
失言を取り繕おうと試みても酸素不足の脳は電気信号を詰まらせ、骸骨からの圧で肺はうまく働いてくれない。
これ以上機嫌を損ねたら今度こそ問答無用で殺されるに違いない。
いや、もしかしたらもう手遅れなのかもしれない。
死を実感し悪寒が体中を包み始めた時、間近にあった骸骨の仮面が離れた。
「では証を示そう」
骸骨が床に手をかざす。
すると骸骨が出現したときと同じように、何もないはずの床から一振りの鎌が現れた 。
漫画やアニメで見たことのある、死神の象徴として名高い三日月の刃の大振りの鎌。
その大鎌を骸骨の白い手が握ったかと思うと、ゴドン、と重い音が鳴り響いた。
「え?」
恐ろしい凶器に釘付けになっていた視界の端に、噴水のように血を吐き出す胴体と、その足元に転がる丸い物体が写り込んだ。
「あ、あっ、あぁぁあああっ!!」
友人の表情は先ほどと変わっていない。
恐怖と困惑がこびりついたような顔をしている。
ただ一つだけ。
違うところが一つだけ。
友人の胴体には、首が繋がっていなかった。
首から赤黒い液体がゴボゴボと零れ出して、胴体は頭を落とされたことにも気付いていないかのように座り込んでいた。
「ああああぁぁぁ! ああぁあぁああ!」
友人の首切り死体、および殺される瞬間の目撃。
吐き気よりも、悲しみよりも、仇討ちよりも。
次は自分の番だという怖気が目から涙を流させ、喉から叫びを上げさせた。
殺される!
本当に殺される!
突然現れた骸骨から理由も知らされないまま、ボクはあの鎌で首を落とされてしまう!!
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