夢のお迎え

朝野美夜

第1話

 祖母は曽祖父に大変可愛がられていたという。

 外地がいちへと嫁いだ時、一番辛かったのは父親と離れることだったろうと思う。

 祖母はよく、雄大な外地の大自然や、自分が経験した不思議の話をしてくれた。それは私の大切な思い出になった。

 これはそんな話のひとかけら。



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 娘が嫁いだ家は、実家からははるか遠い外国だった。

 その家で大切にはされたけれど、大好きな父親と会えないのは寂しいことだった。


 そんなある夜。

 娘は夢を見た。

 広い広いじゃがいも畑。

 その畑の真ん中に、まっすぐ地平線まで伸びる道。 

 土埃香る道を挟んで片側は薄紫、もう片側は真っ白い花、花、花…。

 見渡す限り一面のじゃがいもの花が咲き誇っている。

 五月晴れの空の下、風が渡ると花がそよぐ。花の大海原に白と薄紫の波がうねる。

 その道を、遠くから一台の荷馬車が近づいてくる。

 御者は父親だ。

 ああ、父が迎えに来てくれたんだ。

 そこで、ふっと目が覚めた。


 そして、翌晩も、その翌晩も、娘は同じ夢を見た。

 父に会いたさが募る。

 十夜ほど、同じ夢が続いた。

 そして、その夜、娘は違う夢を見た。


 娘は故郷の屋敷にいた。

 他の親戚の女達と一緒に、一室に籠もって誰かの経帷子きょうかたびらを縫っていた。

 真っ白い穢れのない布に、ひと針ひと針丁寧に糸を通す。

 そんな作業をしながら、娘はいぶかしんでいた。

 父親がいない。

 親戚はみな居るようなのに、何故父の姿が見えないのだろう?

 そう、思ったところで、ふっと目が覚めた。

 そしてそれきり、夢をふっつりと見なくなった。


 それから何日もかかって、遠い内地ないちから手紙が届いた。

 父親が亡くなったという。

 十日程患って、亡くなったというその日付は、あの経帷子を縫う夢をみたその日だった。




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 祖母はよく人魂の話をしてくれた。

 人は体を抜け出し魂だけになれば千里の道も一瞬で越えることが出来る。それが虫の知らせなんだろうね。

 そう話してくれた祖母は、曽祖父が夢で迎えに来てくれた事を思い出していたのだろう。生前会えなかった父娘は、今は共に天にいる。

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夢のお迎え 朝野美夜 @ginkyudou

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