闇ギルド

 バースのバーは、ちゃんとしたバー酒場だ。少なくとも酔っ払っても酒の樽に顔を突っ込めないようにバー仕切り棒がある。

 普通の店と違うのは………地下通路への階段がある事だろう。


 ここは、ラクラル通りの南。正確には、マルバンというこの区画で、貧民街だ。

 元々治安が悪く、そこに犯罪者の溜まり場できるようになった。治安の悪化は、最終的に無法地帯へと行き着き、ブタンの司法機関を排斥するほど混沌。最終的に無政府地帯を築いた。

 そうすると不思議な事に、自治が生まれる。

 ケンビョウでは、猫獣人解放軍がそれで、バームズのマルバン地区では、4・シャックという4つの地下組織の連合がそれだった。

 4・シャックは、別名、闇ギルドと呼ばれ、この連合組織は、マルバン地下にあった空洞とその中にあった古代遺跡に、地下帝国き、それを自由都市リベッタと呼んでいた。(なんと、紋章や旗もあった)


 リベッタには、5つの掟がある。


余所者を入れない。

外部の人間に話さない。

武器は見えるように持つ。

抗争は起こさない。

秘匿せよ。


 この中で、守られているのは、秘匿せよのみだ。これは、ルールを破った場合は、バレないようにしろという意味で、私の偏見に満ちた推測では……リベッタには、4・シャックそれぞれで、肉屋と地下生物牧場を持っている理由ではないかと考えている。おぞましいが、自由都市の名は伊達では無い。


 後、もう一つ、恐らく必ず守られているルールがあったと思う。正式な掟は無いが、法執行官は私服で、という文言がちらほらあった。

 あのルールの違反者も見た事が無い。


 さて、この地下帝国の最も安全な歩き方は、凄腕で、名の知れた傭兵に連れて行ってもらう事だ。

 私の場合は、キャロライン・コードウェルに連れられて、リベッタへと入った。


 暗くカビの臭いが鼻をつき、常に誰かしらの視線を感じる以外は、独特な文化を持つ、異国の街という雰囲気だった。私が、諸外国を回った経緯とコードウェルの存在が大きいのかもしれないが、ここへ来たおかげ、感情が戻った気がした。

 失意や無念が、その時は忘れる事ができたし、何よりも特異な空気に胸が躍った。

 この辺りの犯罪発生率などを考えると恐ろしく非現実的な感想だが、私にら現実から目を逸らす必要があったのかもしれない。


 そうして、リベッタを進んで行くと、地底湖を囲んだ建物があり、それが『ヤモリの巣』と呼ばれる。非正規傭兵ギルド、酒場、売春宿、宿を兼ねる裏社会の一等地だった。


 コードウェルは、私をここに招いたのだ。


 ベイルトン王国国立傭兵ギルドと非正規傭兵ギルドの違いを簡単に表すと、「私も、兵士として戦った」と言いたい者は、国立傭兵ギルドの仕事を受ける。

 政治的な軍事介入や、商人の護衛、盗賊や害獣、怪物の討伐隊。諸外国での人質の救出などだ。

 命の危険もあり、プロフェッショナルである事が求められ、必ず、誰かに感謝される仕事で、報酬が確約される事と、遺族、傷害補償をかけれる点が魅力だろう。


 一方の非正規傭兵ギルドは、上記の仕事を含めたありとあらゆる行為の代行屋と呼べば良い。

 商人の護衛もあれば、商人の襲撃もある。人間の誘拐。当然、暗殺や拷問などだ。

 保障も補償も存在しない。弱肉強食というよりもカオス理論バタフライ効果の偶然と運、不運で組織だった。


 その建物に入ると、コードウェルは、私を南方大陸専門の情報屋に仕立て、質問一つを単価に、商売を始めさせた。

 最初の数人は賑やかしだったが、すぐに客が釣れ始めた。

 そうして、私は辛い記憶を根張り葉掘りと強面のごろつき共に呼び起こされている間。

 コードウェルは、民族楽器の奏者にヤジを飛ばして過ごし、時間換算でも、信じられない額の金額を叩き出したのだろう。


 南方大陸の不安定な情勢は、傭兵たちの商機をくすぐるらしいが……社会に寄生するダニにも、種類がある事を知る良い機会になった。


 キャロライン・コードウェル。彼女のおかげ私の心は、喜怒哀楽を思い出した。

 私は、彼女を殴らなかったが、殴りたくなるような魅力がある女性だったと述べておこう。


 コードウェルは、水晶では無い方の目を輝やかせて、商売繁盛を祝い、こう言った。


「ブラックウッドさん。次は、南方? 東方? どっちにしろ、また捕まったら言ってね」


 私は、信じられないことに、彼女を殴らなかった。

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