第51話

 俺達は早速、スマイル達の残骸からアイテムを回収した。

 手に入ったのは土属性の魔石が四つ、黒鋼アイテムが三つ。

 そしてクライからドロップしたレアアイテムが一つである。


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〈黒鋼ハンマー〉《推奨装備Lv:45》

【攻撃力:+16】

【市場価値:四百六十万ゴルド】

 黒鋼のハンマー。

 飾り気のない性能だが、比較的入手しやすいため、黒鋼装備の冒険者は多い。

 黒鋼以上か以下かは、装備の質の目安の一つとなる。

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 一つ目は〈黒鋼ハンマー〉である。

 なかなか攻撃力が高いが、ハンマーは扱うのにちょっとコツがいる。

 レベルが足りていても、専用クラスでなければ装備するべきではないだろう。


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〈黒鋼インゴット〉

【市場価値:四百万ゴルド】

 黒鋼の鋳塊。

 扱いやすい金属で、性能も高い。

 鍛冶師と冒険者から愛される、〈夢の穴ダンジョン〉でよく見る黒装備。

 黒鋼以上か以下かは、装備の質の目安の一つとなる。

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 二つ目は〈黒鋼インゴット〉である。

 大きな直方体をしている。

 表面には〈黒鋼インゴット〉の刻印がなされており、その下にはスマイルのマークまで彫られていた。


「なんという、わかりやすい……」


 なかなかの重量があり、いざというときは投擲して武器にもできるが……まあ、四百万ゴルドをぽんと捨てるようなつもりはない。


 ハンマーとインゴットは、鍛冶師に頼んで扱える武器にしてもらうもよし、そのまま売り飛ばしてしまうもよし……といった感じである。


 そして三つ目である。


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〈黒鋼ソード〉《推奨装備Lv:45》

【攻撃力:+15】

【市場価値:四百五十万ゴルド】

 黒鋼の剣。

 飾り気のない性能だが、比較的入手しやすいため、黒鋼装備の冒険者は多い。

 黒鋼以上か以下かは、装備の質の目安の一つとなる。

――――――――――――――――――――


 ……とりあえずの武器が揃ってしまった。

 なんというかもう、最低限の目標が達成できてしまった。


 今のレベル帯に相応しい黒鋼装備を手に入れるというのがここ〈百足坑道〉で絶対に熟しておきたい目的であったわけだが、いきなり〈黒鋼ナイフ〉に続いて〈黒鋼ソード〉までドロップしてしまった。


 正直、ナイフと剣、片方の装備くらいなら落ちるかな、とは思っていた。

 ただ、二人の装備がピンポイントで揃うとは思っていなかったため、他の黒鋼装備を用いて、都市ラコリナの鍛冶師に頼んで剣を造ってもらうつもりでいたのだ。


 スマイルの落とす黒鋼装備は結構種類が多いのだ。

 別クラス用の〈黒鋼アックス〉、〈黒鋼ボウ〉、〈黒鋼ワンド〉……。

 半分ハズレ枠の〈黒鋼スティック〉に〈黒鋼ピッケル〉、〈黒鋼の釣り竿〉……。


 他にも多種多様である。

 この中からまさか、必要な剣とナイフがほぼピンポイントでドロップするとは思っていなかった。


「えへへ……お揃いですねぇ、アタシ達!」


 ルーチェが嬉しそうに口にする。


「黒鋼は入手しやすくて強いからな」


 〈マジックワールド〉では効率的に動いているプレイヤーは、初心者を脱したタイミングで大抵黒鋼装備セットを経験することになる。

 都市の低レベル帯のプレイヤーが集まりやすい場所でもよく黒一色になっていたものだ。


「そして問題はこいつだな」


 俺はスマイル達の親玉……クライの落としたレアアイテム、透き通った球形の石を拾い上げる。

 赤の輝きを帯びており、水晶の奥には記号のような文字が浮かんでいる。


「それって、なんなんですか? 魔石にちょっと似てますけれど……」


「魔石とは大きく異なる。刻印石ルーンだ」


 刻印石ルーンとは、武器に埋め込むことで、その武器の能力を向上させられるものである。

 基本的に一つの武器に一つまでしか埋め込むことができず、埋め込みには鍛冶師の協力が不可欠となる。


 ただ、これがどの刻印石ルーンなのかは、調べてみなければわからない。

 刻印石ルーンの中にはしょうもない効果のものもある。

 赤色なので、そこまで極端に悪いものはないはずだが……。


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〈破壊の刻印石ルーン

【市場価値:二千万ゴルド】

 破壊を齎す刻印石ルーン

 埋め込んだ武器の攻撃力上昇値を【30%】上昇させる。

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「おっ、大当たりだな」


 攻撃性能上昇の刻印石ルーン

 文句なしで当たり枠である。

 ダメージ強化系の刻印石ルーンに外れはなく、安定して価値が高い。


 詳細情報を確認したルーチェの顔がさっと蒼くなった。


「ひぃっ! にっ、二千万ゴルドなんですか、これっ! こんな……ちょっと大きい、綺麗なビー玉みたいなのが!」


「埋め込んだ武器の能力を問答無用で【30%】上昇させるアイテムだからな。いや、今のレベル帯で刻印石ルーンにまで目を向けられるとは思っていなかった。ただ、使うか売り飛ばすかはちょっと悩み所だな」


 俺達の装備できる武器の攻撃力上昇値の【30%】となると、たかが知れてくる。

 ここの数値を気にするなら、売り飛ばして全部高価な回復アイテムに変えて、一層とレベル上げに励んだ方がいいかもしれない。

 

 ただ上級冒険者となれば、武器の数値を一つ上げるために数千万ゴルドを惜しまないような連中もゴロゴロいるはずだ。

 何せ〈マジックワールド〉では、自分と同レベルの魔物が倒せなくなったら、そこが成長限界となってしまうのだ。

 仲間を選び抜き、戦略を練り尽くし、武器を少しでも性能の高いものにしなければならない。


 ……かといって、刻印石ルーンを残しておけば武器を交換する際に、また外して次の自分の武器に取り付けることだってできる。

 ここで安易に売り飛ばしてしまうのは、やはりちょっと惜しい気持ちもある。


「なっ、失くしそうで怖いです! とりあえず〈魔法袋〉に入れておきましょうっ!」


 ルーチェが慌てふためきながらそう口にした。


 ……しかし、既になかなかの額になってきたな。

 〈破壊の刻印石ルーン〉のお陰で一気に跳ね上がった。


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〈破壊の刻印石ルーン〉:2000万ゴルド

〈黒鋼ハンマー〉:460万ゴルド

〈黒鋼ソード〉:450万ゴルド

〈黒鋼ナイフ〉:430万ゴルド

〈黒鋼インゴット〉:400万ゴルド

〈クライの魔石〉:90万ゴルド

〈スマイルの魔石〉:80万ゴルド×4

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「今で四千百五十万ゴルドってところか」


 このペースならば〈天使の玩具箱〉の成果を超えられそうだ。

 時間もある。少し休めば、俺もルーチェもまだまだ動ける。


 ルーチェの身体がふらっと揺れ、壁に手を突いた。


「大丈夫か、ルーチェ?」


 割と安全に倒せたとはいえ、命が懸かっているのだ。

 精神的な疲弊も大きいし、身体が強張れば想像以上に負担が掛かっているものだ。


「いえ、額にも驚いたんですが……」


 ルーチェは頭を押さえながら、体勢を整える。


「……それ以上に、思ったより驚かなかった自分にびっくりしました」


 ルーチェの金銭感覚も〈マジックワールド〉プレイヤーに寄ってきたのかもしれない。

 〈豪運〉持ちの道化師が金銭面で苦労することなんて、なかなかなかったことだ。

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