第50話
俺は目を動かし、向かってくる四体の岩塊の魔物達の動きを視界に捉えた。
「俺が引き付ける。ルーチェは敵の動きに慣れつつ、泣き顔の奴を狙ってくれ」
「は、はいっ! やってみせます!」
統率を行っているクライさえ倒せば、残りのスマイル達の動きは一気に崩れる。
ルーチェの素早さであれば、俺がスマイル達を引き付けている間に、リーダー格であるクライを狙うことは難しくないはずだ。
「奴らの身体が光ったら〈加速〉の前動作だ! 厄介なスキルではあるが、発動後は直進しかできない! まずは避けるのに専念して、タイミングを覚えたら躱しつつ、一撃を入れてやれ!」
元々道化師は、相手の大きな動作を避けて攻撃を叩き込むのが得意だ。
〈曲芸歩術〉で瞬間速度を引き上げられる上に、自由に壁も歩き回れるため、逃げ場を潰されて追い込まれることもない。
俺が前に飛び込んだとき、岩塊共の身体が光った。
俺はまず、二体の〈加速〉の軌道から離れた。
一体の飛び込みを〈パリィ〉によって剣で弾き、四体目……連中のリーダーであるクライの〈体当たり〉を盾で受け止めた。
「ルーチェ、上へ頼む!」
そのまま俺は、背後へ跳んで衝撃を逃がしつつ、クライを掬い上げるように宙へと跳ね上げた。
「〈シールドバッシュ〉!」
クライが垂直に真上へと飛び、天井へと岩の身体を打ち付ける。
上手く行った!
滑り台のように盾の表面を走らせ、奴の〈加速〉の勢いを天井へと向けることができた。
手足のない岩塊の魔物だ。
スキルも少なく、知性もさして高くはない。
空中に跳ね上げられれば、何もできはしない。
そしてクライの跳ね上げられた天井では、ルーチェがナイフを構えて待ち構えていた。
〈曲芸歩術〉で天井にぴったり足を付け、逆さの姿勢で〈黒鋼のナイフ〉の刺突を放つ。
「〈ダイススラスト〉!」
六の数字が宙に刻まれる。
黒い刃がクライの岩肌を貫通した。
全身に罅が入り、次の瞬間には砕け散っていた。
【経験値を772取得しました。】
【レベルが43から45へと上がりました。】
【スキルポイントを2取得しました。】
よし、いきなりリーダー格のクライを仕留めた!
ルーチェの素早さと移動範囲の広さ、そしてクリティカルの一撃の重さは強力だ。
黒鋼装備で攻撃力が一気に上がったこともあり、見事にクライを一刃の許に仕留めた。
後のスマイル三体は烏合の衆に等しい。
一気に攻略が楽になった。
二体のスマイルが、俺へと〈加速〉を用いて突進してくる。
「あ、危ない、エルマさん! あのスマイル達、綺麗に逃げ場を潰して……!」
天井で得意げな笑みを浮かべていたルーチェが、スマイルの動きを見てさっと蒼褪めた。
「なんでお前らスマイルが、指揮系統のクライがいなかったら群れないのか教えてやろう」
俺は言いながら盾を構える。
右側のスマイルは剣で軽く弾いて〈パリィ〉を、そして左側のスマイルは盾の表面を軽く滑らせて軌道を逸らす。
そうして俺は跳びながら身体を捻り、最小限の動きで挟撃を回避した。
俺が地面に着地したとき、二体のスマイルが大きな音を立てて衝突した。
両者の身体に罅が入り、力なく地面の上を転がる。
二体共にスタンが入ってくれたようだ。
「無暗に戦地を駆け回ると、ちょっと軌道を逸らされただけでピンボールになるからだよ」
「ていああああっ!」
天井を蹴って降りてきたルーチェが、〈黒鋼のナイフ〉を振るう。
スタンしていたスマイルの片割れが砕け散る。
【経験値を459取得しました。】
俺も素早く、スタンしたもう片割れへと斬り掛かる。
「〈当て身斬り〉!」
【経験値を689取得しました。】
【レベルが45から46へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
よし……さすがは〈初級剣術〉で最初に覚えられるスキルにして、重騎士のメインウェポンだけはある。
重騎士の低い攻撃力を、まあまあ、かついい感じに安定して補ってくれる、頼れるスキルである。
「そして、最後の一体になったわけだが」
俺は最後のスマイルへと、剣を構えてゆっくりと向かう。
スマイルは笑顔を浮かべたまま、戸惑ったように頭部を左右に振って周囲を確認する。
その後、ぐるりと一回転して俺達に背を向けた。
スマイルの身体を〈加速〉の光が覆う。
「逃がすわけないだろっ!」
俺は素早くスマイルの影を踏み、移動範囲を縛った。
反対側へ勢いよく駆け出したスマイルだったが、すぐ影に引き戻されるように動きが止まった。
動けないスマイルの背へと、大きく宙へ飛んだルーチェが斬り掛かっていく。
「黒鋼いただきますっ!」
ルーチェがスマイルの周囲を飛び回り、素早く斬撃を叩き込む。
スマイルは慌てて反撃に出るが、〈影踏み〉のせいで大きくは動けないため、範囲外に逃れたルーチェまで攻撃が届かない。
一方的にルーチェの刃を受け、あっという間に動かなくなった。
【経験値を613取得しました。】
最後の一体も特に苦戦することなく、綺麗に仕留めることができた。
「はぁ、はぁ……一時はどうなるかと思いましたけれど、無事に凌げてよかったです……。アタシ、結構疲れました。ちょっとお休みしましょう……」
リーダー格のクライを一気に倒せたのと、上手くピンボールが決まったのが大きかった。
あれがなければ、負けはしなかっただろうが、結構な長期戦になっていたはずだ。
俺は〈魔法袋〉から水入れの袋を取り出し、ルーチェへと手渡す。
「上手くやってくれた、ルーチェ。ここで〈死線の暴竜〉を使うことになるかと思ってたんだが、結構余力を残せたな」
これはまだまだ〈百足坑道〉の探索が捗りそうだ。
成金ラーナ狩りを行った、前回の〈天使の玩具箱〉の成果を上回れるかもしれない。
「エルマさんが頼もしすぎる……! ア、アタシも頑張らないと……!」
俺はスマイル達の残骸を振り返る。
岩塊がマナへと戻って霧散し始めていく中に、連中の大粒の魔石と、そして黒鋼の鈍い輝きがあった。
そして特に泣き顔の岩塊……クライの中に、一層と眩い光を放つ、綺麗な球体のアイテムがあった。
俺は自身の口許が綻ぶのを感じていた。
どうやら無事に、あのレアアイテムもドロップしていたようだ。
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