第46話

 周囲には三階、四階建ての高い建物がずらりと並ぶ。

 歩道も綺麗に舗装されており、人通りが多い。

 ざっと見回しただけで綺麗な噴水や冒険者の像なんかが目に入り、この都の盛況っぷりが一目でわかるというものだった。


「冒険者の都ラコリナ……噂には聞いていたが、それ以上だな」


「す、すっごい都会……です。アタシ、ロンダルムから出たことがなくって、こんな街並み、初めて見ました」


 俺の言葉に、ルーチェが興奮気味にそう零した。


 この世界では、都市間の移動は容易ではない。

 万が一魔物と接触したときのことを考えれば、冒険者の護衛を付けておくことは必須だからだ。


 〈夢の穴ダンジョン〉である程度レベルを上げてからは、比較的安全な護衛専門として生計を立てる冒険者もいるくらいだ。

 ただ、〈夢の穴ダンジョン〉よりは安全とは言え、高レベル冒険者崩れの盗賊のような連中もいるので、あくまでも比較的安全の範囲ではあるのだが。


 俺はエドヴァン伯爵家の次期当主であるマリスとの決闘を制した後、俺自身の気持ちの整理のため……そして冒険者として更なる高みを目指すため、彼らの領有する都市ロンダルムを出ることにしたのだ。


 そうして辿り着いたのがここ、都市ラコリナである。

 都市周辺にレベルの高い〈夢の穴ダンジョン〉が出没しやすい傾向にある。

 また、それを目当てに将来有望な中堅冒険者が拠点にすることが多く、冒険者の聖地と呼ばれている。


 〈夢の穴ダンジョン〉は都市にとって重要な資源である。

 ドロップアイテムの恩恵は大きく、また高レベル冒険者が育ちやすい土壌も領地にとってはありがたい。


 出没する〈夢の穴ダンジョン〉の平均レベルが高すぎれば、都市の防衛やそもそもの基盤を作ることが困難になってくるのだが、その点、都市ラコリナは最も都市発展のために丁度いいレベルの地だといわれている。

 当然、この周辺地方一帯を領有している、貴族の手腕によるところも大きいのだろうが。


「でっでも、アタシの都市ロンダルムも負けてませんよねっ、ね? 王国全体で言えば、そこそこ発展してる方でしょうし!」


 ルーチェが謎の地元愛を発揮していた。

 誰の都市かでいえば、俺の父親アイザス伯爵の都市になるのだが。


「ま、まあ、ロンダルムもそこそこ発展した都市なのは間違いないと思うが……」


 俺は苦笑しながら、〈ステータス〉を開いた。


――――――――――――――――――――

【エルマ・エドヴァン】

クラス:重騎士

Lv :41

HP :100/100

MP :41/41

攻撃力:27+5

防御力:60+5

魔法力:32

素早さ:32


【装備】

〈下級兵の剣〉〈狂鬼の盾〉

〈鉄の鎧〉


【特性スキル】

〈死線の暴竜〉


【通常スキル】

〈城壁返し〉〈ディザーム〉〈パリィ〉

〈当て身斬り〉〈影踏み〉

〈シールドバッシュ〉〈ライフシールド〉


【称号】

〈不動の者〉〈D級冒険者〉〈番狂わせ〉

――――――――――――――――――――


 俺もそろそろ初心者を脱したところだ。

 ここから一気にレベルを上げていきたいところだが……引っ掛かるのは、武器の弱さだな。


 鎧もできれば何とかしたいが、この世界では攻撃力不足がまず致命的だ。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:1]

〈重鎧の誓い〉[34/100]

〈初級剣術〉[5/50]

〈燻り狂う牙〉[5/70]

―――――――――――――――――――


 スキルツリーの方は、今はどれに振っても新スキルを取得できない。

 基本的に〈重鎧の誓い〉のスキルで、〈燻り狂う牙〉のスキルの扱い難さやリスクを緩和していく形になる。

 しばらくは〈重鎧の誓い〉になりそうだな……。


「……というより、まともな武器を揃えるのが先か」


 一番手っ取り早く、攻撃力不足を補うことができる。

 まずは武器のドロップや、ドロップ品を用いての金策が最優先だとは、ルーチェとも元々話していた。


「ここの冒険者ギルドで下調べしたら、早速次の〈夢の穴ダンジョン〉に向かうんですよね? ア、アタシもそろそろ、エンブリオ討伐で手に入れたスキルポイントを割り振っておかないと……!」


 ルーチェも自身の〈ステータス〉を開き、うんうんと首を捻り始める。


「まあ、次の〈夢の穴ダンジョン〉が決まってから考えてもいいんじゃないか? そうじゃなくても、ギルドに着いてから考えても遅くは……」


「や、やっぱりこれっ、エルマさんが決めてください! アタシ、だって、わかりませんもん!」


 ルーチェが〈ステータス〉をひっくり返して俺へと見せる。

 ……あまり人に見せるべきものじゃないとは、いつも言ってるんだけどな。


――――――――――――――――――――

【ルーチェ・ルービス】

クラス:道化師

Lv :39

HP :49/49

MP :48/48

攻撃力:28+3

防御力:22

魔法力:30

素早さ:52


【装備】

〈鉄石通し〉


【特性スキル】

〈招きニャロン〉


【通常スキル】

〈ダイススラスト〉〈曲芸歩術〉〈ドッペルイリュージョン〉


【称号】

〈D級冒険者〉〈番狂わせ〉

――――――――――――――――――――


 スキルが全く増えていない。

 ということは、本当に大分前からスキルポイントを割り振ってはいなかったようだ。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:18]

〈愚者の曲芸[10/100]〉

〈豪運[15/70]〉

〈攻撃力上昇[0/50]〉

――――――――――――――――――――


 スキルポイントをかなり貯め込んでいる……。


「そうだな……目指す形が安定型か、魔法型、手数型、クリティカル型かで変わって来る」


 もっとも安定型以外は、どこかのタイミングで〈技能の書スキルブック〉を手に入れる必要があるが。


「安定型って……最終的に弱いって話でしたよね?」


 そもそも〈マジックワールド〉では、安定型道化師という概念自体がなかった。

 単にこの世界でそれなりの冒険者としてやっていくだけなら、最終系を意識せずに手っ取り早くステータスを上げられるスキルツリーの方がいい、というだけの話である。


「まあ、そうなるな。安定型か魔法型にするなら、〈豪運〉には余裕ができるまで振らない方がいい」


 〈豪運〉の幸運力強化、及びそれによって起こるドロップ率強化は強力であるし、俺にとってもありがたい。

 ただ、安定型が魔法型であれば、戦闘面において直接的に幸運力が役立つ機会が少ないのだ。


「一番強いのをお願いします! アタシだって、目標は大きく持ちたいです! それに……これ以上戦いについて来れないだろうからここで解散しよう、みたいになったらアタシ嫌ですもん……!」


「そうなるとクリティカル型だから……ひとまず〈豪運〉に【15】だな」


 特に隠しパラメーターである幸運力が高いであろうルーチェは、それを活かしたクリティカル型が一番だ。

 他の型を目指せば、何かのクラスの劣化に近い形になってしまう。


「わかりました! じゃあ早速……!」


 ルーチェは躊躇いない動きで、スキルポイントを割り振った。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:3]

〈愚者の曲芸[10/100]〉

〈豪運[30/70]〉【+15】

〈攻撃力上昇[0/50]〉

――――――――――――――――――――


 ま、迷いなく行った……!


「おおっ! 〈招きニャロン〉が、〈幸福の天使〉に進化しましたよっ!」


 〈幸福の天使〉は〈招きニャロン〉同様に、幸運力を引き上げる特性スキルである。

 幸運力五百%アップから七百%アップに変化しているはずだ。


 基本的に高価なアイテム程ドロップ率が渋くなっていくわけだが……〈豪運〉振り道化師の幸運力の伸びの方が大きいため、パーティー内に一人いるだけでじゃんじゃん高価なアイテムをドロップしていけるようになる。


「目標が固まると、なんだか俄然やる気が出てきました! アタシ、クリティカル型の道化師目指して頑張りますねぇっ!」


 ルーチェがぎゅっと拳を握り、そう口にした。


「そうなると、キーになる〈技能の書スキルブック〉……〈死神の凶手〉を手に入れないとな。〈燻り狂う牙〉で五千万ゴルド持っていかれたことを考えると……億は覚悟しておくべきか?」


 単純にドロップ率が低い上に、高レベルの魔物からのドロップであるため入手難度が高いのだ。

 おまけに〈燻り狂う牙〉よりもずっと使い勝手がいい。


「……やっぱり、別の型でいいですか?」


 ルーチェの表情が凍り付いていた。


「いや、どの道、入手できる機会はもっと先になるだろう。その頃には、数億くらいどうにかなっているはずだ。問題なのは、〈死神の凶手〉の入手機会が来るかどうか、の方だな」


「な、なんだかアタシ……ちょっと怖くなってきました……」

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