第11話
「え、F級冒険者に、あんな化け物と正面からぶつかるなんて無理に決まってるだろ!」
「馬鹿っ! 黙っとけ! 今の内に、とっとと逃げるぞ! あいつが殺されたら次は俺達だ!」
遠巻きに冒険者達が大騒ぎしている。
だが、それでいい。
逃げたい奴は勝手に逃げてくれればいい。
下手に加勢されても、魔物の動きもわからず、防御力が低く、防具も安物で済ませているF級冒険者では、マッドヘッドの相手はできない
もって十秒だろう。
俺は【Lv:16】、対してマッドヘッドは【Lv:40】。
直撃をもらえば、防御特化の俺でも一撃でやられかねない。
動作は読みやすいが、レベル差のせいで動きも恐ろしく速い。
マッドヘッドの特性〈痺れ毒の腐肉〉による麻痺は、平均三分間で自然治癒する。
その間を凌ぎ切れば、テイルの〈ヒール〉で回復したゴウタンが立て直せるはずだ。
ここ三分間を死ぬ気で耐え切ってみせる。
「ブゥワアアアア! ブゥワアアアア!」
マッドヘッドが両腕をブンブンと振り乱す。
俺は常に、マッドヘッドの腕が一手で当たるところには立たず、常に移動して攻撃を回避していく。
マッドヘッドは大振りで攻撃を読みやすい。
だから、安定して攻撃を避けられるはずだったのが……。
「ぐぅっ!」
頭上から飛んできた一撃。
俺は右へ回避しつつ、〈パリィ〉で爪を左へ受け流してギリギリ回避した。
それでも余波で吹き飛ばされて地面を転がる。
やはりステータス差がキツ過ぎる。
もっとも、〈マジックワールド〉なら、今のくらいなら完全回避できてたんだがな……。
状況は最悪だ。
安全第一で動きたかったのに、準備なしでレベル格上と一対一でぶつかることになるなんて思っていなかった。
「お、おい、あの重騎士、ゴウタンさんを吹き飛ばしたあの化け物と対等に戦ってないか?」
「馬鹿言え! どう見てもジリ貧だ! 今生き残ってるのが奇跡だぞ!」
遠くから冒険者達の声が聞こえてくる。
「なぁ……アイツ、笑ってないか?」
その声を聞いたとき、最初はマッドヘッドのことかと思った。
だが、すぐに俺は、自分の頬が緩んでいたことに気が付いた。
「参ったな……こういう状況は避けたかったが、不思議と嫌いってわけじゃないんだよ」
ハイリスク、ハイリターン。
〈マジックワールド〉でもよくある状況だ。
敗れた際のデスペナルティが痛かったため、効率で言えば最悪だったんだが、自分の実力を限界まで問われる状況で、燃えない奴は男じゃない。
方針を切り替える。
どうにも今の俺では、マッドヘッドに一方的な攻撃を許していては、回避しきることは困難なようだ。
牽制程度にこちらからも攻撃する必要がある。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:0]
〈重鎧の誓い〉[15/100]
〈防御力上昇〉[0/50]
〈初級剣術〉[5/50]【+5】
――――――――――――――――――――
俺は〈ステータス〉を開き、〈初級剣術〉へと全て割り振った。
先に〈重鎧の誓い〉を伸ばすか、アイテムで新しいスキルツリーを入れてそっちを伸ばすのが好ましかったのだが、まあ、仕方ない。
結局〈初級剣術〉の【5】で手に入るスキルも、どうせいつかはとっておくつもりだった。
【〈初級剣術〉が[5/50]になったため、通常スキル〈当て身斬り〉を取得しました。】
よし……!
――――――――――――――――――――
〈当て見斬り〉【通常スキル】
ゼロ距離から対象を剣の腹で殴りつける技。
防御力の高い相手にもダメージを通しやすい。
――――――――――――――――――――
〈当て見斬り〉は〈初級剣術〉の中でも外れ扱いされているスキルである。
だいたい皆、【10】で手に入る剣装備時の攻撃力を上げる特性を先に欲しがっているため、必要以上にネタにされている節もある。
そして実際、剣のリーチの長所を捨ててまで敵に飛びつくのは剣士の戦い方にあっておらず、後半の効果にしてもダメージが通しにくい格上の相手にそもそも挑むなという話になってくる。
だが、このスキルは攻撃力が低く、防御力の高い重騎士のステータスと噛み合っているのだ。
重騎士のステータスで相手の攻撃を耐え続けつつ、〈当て見斬り〉で確実にダメージを重ねていくことができる。
また、〈マジックワールド〉のレベル上げは基本的に、如何に自分より格上を狩っていくかにある。
どんな相手にもダメージを見込める〈当て見斬り〉の有用性は高い。
「ブゥワアアアア!」
また、マッドヘッドの一撃を〈パリィ〉で弾く。
俺もまた殺しきれなかった衝撃で吹き飛ばされたが、地面に剣を突き立てて勢いを利用して身体を半回転させ、マッドヘッドの脚下へと転がり抜けた。
「ブゥワ……?」
マッドヘッドが俺を見失った。
「〈当て見斬り〉!」
背後より密着し、マッドヘッドに至近距離から殴るように斬りつける。
厚い体表の奥の芯を砕く。
「ブゥッ!」
マッドヘッドの身体が大きく揺れ、慌ててこちらを振り返る。
その後、我武者羅に腕を振るっていた。
動きが乱れてくれれば、より動きを読みやすい。
俺はマッドヘッドの攻撃範囲から逃れるように駆け回りながら、強引に追ってきた攻撃を〈パリィ〉で受け流す。
隙を見つけては〈当て身斬り〉で反撃し、マッドヘッドが一方的に攻められないように牽制した。
だが、マッドヘッドの攻撃を〈パリィ〉で完全に打ち消すことはできない以上、俺のHPもかなり削られていた。
それなりに〈当て身斬り〉も入れたが、マッドヘッドの高いHPを削り切れるほど甘くはない。
「ブゥ……ウウウウ……!」
マッドヘッドは、明らかに格下の俺を一向に仕留めきれないことに対し、強い苛立ちを覚えているようだった。
次こそ終わらせてやるとばかりに、巨大な腕で地面を殴りつけ、俺を威嚇する。
「そうだな、マッドヘッド、ここからが本番だよな。……だが、悪いが、俺の役目はお前を倒すことじゃない」
「ウウウ……?」
俺が剣を下ろしたのを見て、マッドヘッドが訝しげな声を上げる。
「〈竜殺割り〉!」
マッドヘッドの背後でゴウタンが高く跳び上がり、その脳天目掛けて斧を叩き落とした。
マッドヘッドの頭から血飛沫が上がり、その巨体が倒れる。
〈竜殺割り〉は、クリティカル狙いの大振りスキルだ。
強力ではあるが、動作も隙も大きく、動く相手に芯で捉えるのは難しいため、使い所が限られてくる。
ただ、激昂したマッドヘッドは俺に集中していた。
HPを回復し、麻痺から脱したゴウタンが背後より接近するのに気付くのが遅れたのだ。
【経験値を330取得しました。】
【レベルが16から23へと上がりました。】
【スキルポイントを7取得しました。】
経験値の多くはゴウタンに流れたはずだが、それでも桁外れの量が入ってきた。
スキルポイントも美味しい。
使った分以上に返ってきた。
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