第2話
「クソ親父め……酷い目に遭った」
顔が割れれば面倒なことになりかねないため、馬車を用いてエドヴァン家の館のある街からは離れ、その隣街である都市ロンダルムまで来ていた。
エドヴァン伯爵領からは出ていないものの、特に俺の顔が隣街の領民にまで広まっているわけではない。
馬車の遠出にも場所と時間が掛かる。
しばらくは、この街を拠点に生活することになるだろう。
俺は街で取った宿のベッドに腰を掛けていた。
本当に酷い目に遭った。
転生前の記憶が戻っていなければ、一生立ち直れなくなるところだっただろう。
ただ、前世の戻った俺としては、正直貴族の暮らしはごめんであった。
この世界の貴族は権力が強いが、それは強者としての義務を負っているためだ。
自由に旅をしながら生きていた方がよっぽど気楽に暮らせるだろう。
「せっかく手に入れた〈マジックワールド〉の世界……節々まで自由に堪能させてもらわないとな」
ただ、ゲームの設定とこの世界の歴史や風土は全く違う。
国名も地名も何一つ一致しない。文化もかなり違っている。
この辺りはまた追々調べていく必要がありそうだ。
……しかし、その前にまず、クラスとスキルの検証だ。
これが一番楽しみだ。ただ、ここの仕様が変わっていたら、かなりの痛手になる。
知らない間にアプデされていて、重騎士の壊れ性能がなくなっていたらとんでもない事態だ。
貴族次期当主の立場であれば、周囲に説明のできない奇行に奔走することはできなかっただろう。
「やるべきことはいくらでもある。なんだ、丁度いいじゃないか」
それに、父親だってあんな奴だとは思っていなかった。
いや、前世の記憶を取り戻して価値観が広くなった今としては、身勝手で無茶ばかり口にして、他人に厳しく自分に甘い男だったと認識できる。
エドヴァン伯爵家は当主に意見できる人間がいないせいだろうか。
次期当主となったマリスも、変わり者だとは知っていたが、あんな奴ではなかったはずだ。
俺を見て、嘲笑っていた。
覚えはないが、恨みでも買っていたのだろうか。
しかし、追い出したいなら、出ていってやるさというようなものだ。
ほとほとあんなところ、出る口実ができてよかった。
俺は窓の外を見て、溜め息を漏らした。
「……さようなら、母上、父上」
無論、割り切れない気持ちはある。
あんな男でも今生の父だったのだ。
だが、今は前を向いて行くしかない。
ぼうっとしていれば野垂れ死ぬだけだ。
パン、と自分の頬を打った。
「よし、しんみりタイム終わり! クソ親父の千倍強くなって、見返してやらないとな」
何せこっちにはそれだけの知識という武器がある。
「〈ステータス〉」
俺の言葉に応じて、光が宙に俺の上方を投影していく。
――――――――――――――――――――
【エルマ・エドヴァン】
クラス:重騎士
Lv :1
HP :10/10
MP :4/4
攻撃力:3+5
防御力:3+5
魔法力:5
素早さ:3
【装備】
〈下級兵の剣〉
〈鉄の鎧〉
【特性スキル】
〈なし〉
【通常スキル】
〈なし〉
【称号】
〈なし〉
――――――――――――――――――――
改めて自分のステータスを確認する。
〈下級兵の剣〉と〈鉄の鎧〉は、宿に来ると途中に適当に見繕ったものだ。
これで最低限の格好がつく。
自身のステータスよりも遥かに強い武器は、重くてまともに扱えない。
今はこれが限界である。
どうせすぐ役に立たなくなるが、今はこれでいい。
初期のレベルは装備さえ整っていれば簡単に上げられるため、ここで惜しむべきではない。
俺は〈ステータス〉へと手を触れる。
「スキルツリー画面っと……」
〈ステータス〉にはもう一つの画面がある。
それがスキルツリー画面である。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:5]
〈重鎧の誓い[0/100]〉
〈防御力上昇[0/50]〉
〈下級剣術[0/50]〉
――――――――――――――――――――
これは要するに、自分がどの分野のスキルを得るかを選択できる、というものである。
各スキルツリーにスキルポイントを割り振り、それに応じたスキルを得ることができる。
[残りスキルポイント:5]となっているが、これはクラスを得た際に手に入る初期ボーナスのポイントである。
後はレベルが一つ上がるごとに【1】ずつ増えていく。
どう割り振るかが命運を分けるといっても過言ではない。
スキルツリーはクラス固定のものと、キャラメイク時にランダムで手に入るものの二種類がある。
この中で固定は〈重鎧の誓い〉だけだ。
〈重鎧の誓い〉は重騎士専用スキルツリーである。
最弱のネタスキルツリーといわれていた。
嵌ればまあまあ強いが、圧倒的に扱い辛かったり、そもそも使用タイミングのないものが多いのだ。
〈防御力上昇〉はそれなりに有用なスキルツリーだ。
スキルは手に入らないが、ひたすら防御力をぐんぐん伸ばすことができる。
〈下級剣術〉もまあ悪くない。
伸ばしきれば、特殊なアイテムを用いて上位の剣術スキルツリーへ進化させることができる。
どちらも実用性が高い。
「ま……こうするんだけどな」
〈ステータス〉に手で触れて操作する。
――――――――――――――――――――
【スキルツリー】
[残りスキルポイント:0]
〈重鎧の誓い[5/100]〉【+5】
〈防御力上昇[0/50]〉
〈下級剣術[0/50]〉
――――――――――――――――――――
〈重鎧の誓い〉が最弱のネタスキルツリーといわれていたのは、あくまで〈マジックワールド〉の初期の時代の話である。
検証され尽くした今、最強のスキルツリーであることは証明済みだ。
スキルツリーを最大にするまで最短でも【Lv:95】まで掛かるのだ。
しょうもないステータスアップや、他クラスの劣化スキルツリーの〈下級剣術〉に振っている余裕はない。
【〈重鎧の誓い〉が[2/100]になったため、通常スキル〈城壁返し〉を取得しました。】
【〈重鎧の誓い〉が[5/100]になったため、〈防御力:+10〉を取得しました。】
よし来た。
俺はニヤリと笑った。
――――――――――――――――――――
〈城壁返し〉【通常スキル】
相手の近接攻撃の直撃を受けてダメージを封殺できた場合、スキル使用者の防御力に応じたダメージを与えることができる。
――――――――――――――――――――
ダメージ封殺とは、こちらの防御力が上回っており、ダメージを与えられなかった状況のことだ。
もっとも〈マジックワールド〉のダメージ計算式は基本的に【〈ダメージ〉=〈攻撃力〉-〈防御力〉/2】となっている。
無論、当たりどころや命中部位に左右されるが。
要するに完封状態を出すことは難しく、格下相手にしか通用しない。
だが、ここで先程〈重鎧の誓い〉で得た、オマケの防御力上昇が生きてくる。
初期レベル帯における【防御力:+10】は大きく、防具をしっかり整えていれば、ロクな攻撃スキルもない低レベル帯の魔物ではほぼ突破できない。
そうして安易に飛び込んできた魔物は、重騎士の重い防御力を受けて消し跳ぶことになる。
中には状況次第で突破してくる魔物もいるが、俺は魔物の大まかなステータスを把握している。
怪しい魔物がいれば戦わなければいいだけだ。
「さて、明日が楽しみだ」
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