第40話 6月27日(日)スタート
ブーーーーーーーーー
開演を知らせるブザーがなると照明が落とされた。
ザワついていた会場内が一瞬静まり返り、知らない人同士なのに気持ちが一つになり拍手が沸き起こる。
「この前もライブもこんな感じだったわね。ゾワッと盛り上がる感じ」
「うん。こっちまで緊張する楽しみって新鮮でクセになりそう」
「にひひ。アタシならいつでも誘ってくれていいのよ?」
「
僕は春町あかりという約束された恋人がいるので幼馴染と言えど女の子と二人で遊びに行くのは控えたい。
「あっ! あかりんが出てきた」
「よしっ! 集中だ」
二人席とはいえ前後には他のお客さんがいる。
私語で周りの人の迷惑になってはいけないし、なにより初めて間近で見るあかりんだ。全神経をステージ上のあかりんに向けるくらいの気持ちで公開録音に挑まなければ。
「みなさーん。こんにちはー!」
「「「こんにちはー!」」」
サイドテールを揺らしながらステージの中央に立ったあかりんが挨拶すると息ピッタリでオタク達が返事をした。
最前列に座っていると中が見えてしまうんじゃないかと羨望よりも心配が感情の上位にきた。
「今日はラジフラの、そしてあかりにとって初めての公開録音にお越しいただきありがとうございます。ちゃんとお客さんが来てくれて安心しました。こんなに大きいホールに誰もいなかったら泣いてたと思います」
あかりんの言葉に応えるように会場からは拍手が沸き起こった。
負けじと僕も手を叩く。
今、同じ空間に春町あかりがいる。
たくさん声を聴いて、写真を見て、たまに公開される動画に想いをはせた女の子が目の前にいる。
その感動を大声で伝えたいけど、それはやってはいけない。
僕の気持ちを拍手に込めてあかりんに送った。
「時間も限られているので早速本日のゲストに登場していただきましょう。あかりが尊敬する先輩、サマーメイプル役で武道館ライブを成功させた
会場の拍手はさらに大きくなる。その一因はステージに立つあかりんも嬉しそうに手を叩いているからだと思う。
目を輝かせて拍手する姿はもはやただのあずみんファン代表みたいになっていた。
「みなさんこんにちは~。武道館ライブを成功させた
あかりんとは対照的に大人っぽいロングスカートを履いて堂々と現れた。武道館で間近で見た時とは違う妖艶な雰囲気を漂わせている。
「あぁ……美しい」
隣に座る幼馴染が心の声を漏らしてしまうのもわかる。
それくらいあずみんがオトナのオーラは僕らみたいな高校生には刺激が強い。
「内田先輩、先日はライブお疲れ様でした。この前のラジフラでもお話したんですけど関係者席にウインクするのは反則ですよ。あの瞬間、あかりはただのオタクに戻りました」
「どうしたどうした。楽屋で話してくれればよかったのに」
「楽屋だとマネージャーさんに公私混同だって怒られちゃいますから」
「公開録音中の方が公私混同じゃない?」
「大丈夫です。今日は先輩のファンもたくさん来ているのでみんなの武道館ライブの話を聴きたいはずです。あと、ここならマネージャーさんに怒られません。……今は」
「まあね。さすがにイベント中は怒られないね。あとのことは知らないけど」
「2週連続の生放送も嬉しかったですよね。みなさん?」
あかりんの問い掛けに
僕だって突然の2週連続生放送には心躍ったんだから、少しでもあずみんを知っていたり、内探のリスナーならあかりんと同じく嬉しかったと思う。
本来はホームであるはずのラジフラの公開録音にあずみんがゲスト出演することで
自身があずみんファンの一面もあることを活かして自分のペースに巻き込んでいる。
「さすがあかりんだ」
「ん? そうね。ラジフラの公開録音で武道館ライブの話をするのは同じあずみんファンとして尊敬するわ」
ボソッと漏れ出た独り言に
ラジフラと内探は放送形態が違うので番組としての接点はなにもない。
その垣根を超えてオープニングトークをした点もすごいところではある。
「あ、今イヤなものが視界に入っちゃいました。巻けって指示が出てました」
「そうね。まだタイトルコールとかしてないからね。呼ばれたから出てきたけどタイトルコールがあって、軽くオープニングトークをしてから私が出てくるんだよ?」
「そうでした! これはあとで本当に怒られるやつだ……えっと、仕切り直しでいいですか? あかりが登場するところから」
あかりんの問い掛けに会場は笑い声と拍手の音に包まれた。
「うそ。今までの公開録音じゃなかったの?」
「みたいだな。今のところは放送されないってことか。会場だけのおまけみたいな」
「にひひ。超お得じゃん。来れてよかった。ありがと」
「ふっ。そんなおまけを作ったのはあかりんだ。感謝はあかりんに頼む」
僕にペア招待券を与えてくれたのもあかりんだ。
将来の伴侶であるあかりんにこそ称賛の言葉が相応しい。
「すみませーん。一回戻るので、さっき以上の盛り上がりでお願いします」
「タイトルコールする前に私を呼んだらあかりんに教えてあげてね」
笑顔で手を振りながら舞台袖へと戻っていく二人の姿はまるで姉妹のようで実に微笑ましい。
本来ならイベント終了時の姿を開始直後に見られて、さらにここからある意味で本番が始まるという期待感。
全てが想像を超えた展開に胸の高鳴りが最高潮を迎えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。