第7話 5月19日(水)
―ラジオネーム・スノー原さんからです。あ、久しぶりじゃん。ほら、女の子リスナーは珍しいから覚えてるんだよ。なになに、恋の悩み? ウソっ! 本当に恋愛相談だ。
水曜の夜は『
反面、女性リスナーからの恋愛相談にはちゃんと答えるという姉御っぷりも人気の理由だったりする。
―なになに、幼馴染の男の子がアニメや声優に興味津々です。わたしを見てもらうにはどうすればいいですか。この前も同じような悩みの子いたよね。全国の幼馴染がいる男子諸君、遠くの声優より近くの幼馴染だよ。
あずみんの言葉にちょっとだけ胸を締め付けられる気分になった。
♪ぴろりん
「はぁ……」
スマホから鳴った通知音にため息が漏れる。
このタイミングでのメッセージは絶対に
気付かないふりをして未読スルーをしても通学路か学校で絶対にエンカウントする。今面倒になるか、あとで面倒になるかの二択。
僕は宿題を早めにやるタイプなので渋々ながらもスマホを手に取った。
“今のメールって
ラジオに対する内容というのは予想通りだったけど、その送り主は僕の予想とは違っていた。
“違うんじゃないか。ずっとまみまみで送ってるし”
“だよなあ。この前も幼馴染の恋愛相談が送られてたじゃん? 世の中に声優ファンの幼馴染が何人もいるのかって気になったんだ”
“それは僕も思った。でも声優ファンも昔に比べてかなり増えてるみたいだしおかしいことはないんじゃないか”
―スノー原ちゃんも久しぶりにメールを送ってくれたってことは、まだ私のことを好きなんだよね? その幼馴染と一緒に推して。そして、ゆくゆくはお子さんにも推してもらって私は世代を超えて活躍したい。
あずみんは自分を共通の趣味にしてカップルを成立させたいみたいだ。無難な回答に聞こえるようで、早くも結婚からの出産、さらには声優ファンの英才教育まで勧めるあたりがあずみんらしい。
“あずみんは幼馴染で付き合うの推奨みたいだな”
“僕には関係のない話だけどね”
“はっはっは。またまたご冗談を”
「ここ数日の幼馴染推しは何なんだ。
クラス替えで教室での幼馴染カップルいじりが終わったと思ったら公共の電波でイジられてるみたいでモヤモヤする。
それだけならまだしも、当事者である幼馴染も声優ファンだし、
―アニメだと幼馴染って負けヒロインじゃないですか。でも、それってヒロインがたくさんいるからですよね。さすがにスノー原ちゃんの周りにアイドルみたいな子がいっぱいいて、その幼馴染くんを狙ってるわけじゃないと思うんですよ。
「そんなハーレム展開だったら男子からフルボッコだわな」
二次元ではよくあるシチュエーションだけど三次元ではほぼ起こりえない展開。それがハーレムだ。
きっとその幼馴染くんもこの放送を聴いて声優から身近な幼馴染へと恋愛感情をシフトさせることだろう。
―スノー原ちゃん何歳なんだろ。書いてないか。今度ソロライブをやるから誘ってみてもいいんじゃないかな。もう全然私のライブで愛を育んで構わないから。
“愛を育んでいいってさ”
“うっせ”
―でも万が一、万が一にも幼馴染くんが私にガチ恋するようなら、もう最終手段に出るしかないよ。
思いつめたようなあずみんの声色に僕は不安を覚える。
―既成事実を作っちゃおう。触れられない女性声優より触れられる幼馴染。男なんて触ったらイチコロだから。ね?
「ね、じゃねーよ」
―次のお便り行けって? はいはい、あっ! でも次も幼馴染ですよ。いつもありがとうまみまみちゃん。
「なんか変な流れでできてしまった……」
幼馴染の恋愛相談からの、きっと僕の日常をイジったまみまみこと
―幼馴染がアタシの谷間を見ても無反応でした。もしかして男として枯れてしまったのでしょうか? えっ!? まみまみちゃん大胆。めちゃくちゃ進展した!?
「げふぉっ!」
ラジオで読み上げられるメールの内容に驚き過ぎてむせてしまった。こんなアニメみたいなリアクションって本当にあるんだな。
“
“違う。
“幼馴染が痴女。一体なにが不満なんだ”
いや普通にイヤだろ痴女の幼馴染。しかも別にエロい体をしてるわけじゃ……いや、多少は女らしいなと思うけども痴女の理想像から程遠い。
あんな子供みたいな体型で痴女なんて笑わせてくれる。
―まみまみちゃんの幼馴染くんはね、きっと照れ隠しだよ。キャー! ほんと大胆だね。スノー原ちゃん、こういうこと。最初は反応が悪いかもしれないけど絶対に頭の中は幼馴染のことでいっぱいになるから。
「じ、実況はどんな反応を」
僕と
まみまみさん、今から俺の幼馴染にならねーかな。
胸を見せてくれる幼馴染がいるのに声優を追いかけるとか異常者だわ。
もしまみまみさんという存在がおっさんの妄想だったら恐い。
「こんな幼馴染が実在するなんて信じられないよな」
ざっと見た感じ、まみまみの幼馴染こと僕に対する好意的なコメントはなかった。世間から見れば
―幼馴染くん。私を応援してくれるならまみまみちゃんと付き合ってもいいからね。私、全然応援してるから!
公共の電波で声優さんから応援までしてもらった。
別に恥ずかしくて拒否ったわけでもないから応援されても反応に困る。
―いやー、最近は幼馴染が熱いね。やっぱりさ、幼馴染がいる、いないって生まれた環境が大きいじゃない? ある種の誕生ガチャみたいな。そのガチャでSSRを引いた人生なんだから幼馴染ルートを満喫してほしいわけ。
「そんなこと言われてもなあ……」
もしあかりんに同じことを言われていたら、と脳内でifルートを妄想してみる。
ある意味で
だからと身近な
結局はそういうことなんだ。
だけど1位ではない。絶対に手の届かない存在だとしても、今の僕の一番はあかりん、
このランキングに変動が起こらない限り、僕は
「あずみんのお陰で気付けたのかも」
幼馴染煽りで明日が不安になったけど、その不安が僕の中で答えを見い出してくれた。僕の幼馴染イチオシの声優さんだけのことはある。
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