第8話 犠牲者一人目:魔王流の再起不能 その2

 サイド:アドルフ




 2日後――。


 実家の子爵家の医務室で、俺は目を覚ました。


 ベッドサイドにはメイドがいて、俺が起き上がると同時に慌ててどこかへと走り去っていった。


 どうにも、実家に送り返されるほどのケガを俺はしたようだが……。


 しかし、何故ヤツが……あんな実力を?


 いや、ひょっとして……ヤツはアレなのか?


 たまに起きるという覚醒者……先祖返りの現象ってのがアレなのか?


 と、そこで俺は「あっ!」とその場で声をあげた。


 おいおい、おかしいぞ?


 ――足が……動かねえっ!


 一体全体どういうことなんだ!?


 そして訪れる――背骨の激痛っ!


「うぐっ……ぎっ――! か……はっ……」


 息も絶え絶えになりながら、楽な姿勢を探して横になる。


 まさかアイツ……俺の背骨をオシャカにしやがったのか?


 そうして、痛みの中……俺は恨み節とともにこう呟いた。


「……絶対に許さねえ」


 ケガは治る。


 必ず治る。なんせ、第6階梯以上の回復魔法であれば神経をつなぐなんてワケはねえからな。


 親父が金を出せば有名な治癒師を連れてくるなんてワケねえし、そこは何の問題もねえはずだ。


 くっそ……あの男爵家の5男め……子爵家長男に逆らったことを公開させてやる。



 ――地獄を見せてやるっ!



 生きたまま炎で焼いたって、俺の気は収まらねえぞこれは。


 ただの地獄じゃねえ、俺が奴に見せるのは生き地獄だ。


 奴は俺の背骨を壊して再起不能にさせたつもりみたいだが……見せてやるよ……本当の再起不能ってやつをな。


 そうして、部屋にコンコンとノックの音が鳴り「入れ」と俺は声をあげた。


 すると、屋敷付きの医者が入ってきて、開口一番に俺はこう言った。


「背骨がやられてるみたいで足が動かん。すぐに高名な治癒師の手配をしてくれ」


 俺の言葉を受けて、医者は沈痛な面持ちを作る。


「……アドルフ様」


「何だ?」


「冷静に聞いてください」


「冷静? どういうことだ?」


 なんだ? 回りくどい言い方をしやがる野郎だな。


「既に治癒師による治療は終わっています」


「あ? 足が動かねえだろうがよ?」


「第7階梯を扱える高名な者で、腕は確かです。しかし、歩けるようになるまでは2週間はかかる……と」


 なるほど。


 すぐに治せなかったことにはイラ立つが、すぐに治るなら問題ねえ。


「と、なるとしばらくはリハビリ休暇ってことか。まあ、久しぶりの実家ってことでアリっちゃアリだな」


「……アドルフ様」


「何だ?」


「脳内魔術回路に問題はありません。ですが……背骨は体内のチャクラの循環の起点となっているのはご存じですね?」


「そんなのは魔術師やってるなら常識だろうが? ってか、突然何を言い出すんだ?」


 そこで医者はまつ毛を伏せて、消え入りそうな声でこう言った。


「坊ちゃまの背骨は……魔術的に完全に破壊されています。これを治療することは……現時点では国中のどんな治癒師に頼んでも……」


「あ? なんだって?」


「つまり、坊ちゃまは今後……魔法を使うことができません」


「…………え?」


「……はっきり言ってしまうと再起不能です。嫡男としての立場は消えて、今後は……その……魔術師の家系としての世間体から屋敷の外に出ることは一生敵わないでしょう」


 頭が真っ白になっていく。


 は? は? 何言ってんだコイツ?


 俺が魔法を使えないだって?


 子爵家の長男として生まれ、この国に20体しかない神装機神……守護神の正規搭乗者候補、その最右翼の一角の俺が?


 学院でも近接戦闘の天才として名高くて、オヤジにいつも「お前のような息子をもって鼻が高い」と言われてた俺が?



 ――魔法すら使えない最底辺の不能者になるって?



「馬鹿な冗談言ってんじゃねえぞ?」


 試しに生活魔法……ベッドサイドにあるランプに火を灯そうとしたが……できない。


 オイオイ、マジじゃねえか。

 

 子供にもできる当たり前のことすら、できねえじゃねえか。


 ってか、どうなるんだよ俺の人生?


 貴族の家の不能者なんて、家を継ぐどころか存在そのものを抹消されて、座敷牢みたいなところに一生閉じ込められて外に出歩くことすらできないって話だよな?


 と、そこまで考えたところで――


「オイ、テメエ! 治せよ! 医者なんだろっ!」


「……残念ながら」


「治せよ! 治せよ! 医者何だろうがオイっ!」


 怒りのあまりに医者の胸倉を掴もうとして――


 ――足が動かない


 そのまま、勢い余って俺はベッドから転落した。


「うぎゃああああ! 腰が……背骨が痛いいいいいいっ!」


「おい、メイド! 鎮痛剤……っ! 鎮痛剤だっ!」


 そして――子爵家長男としての俺は完全に再起不能になったのだった。






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