2次会は、自宅にて。
春耳蜜
第1話
「もうこんな時間……」
携帯の液晶画面を見るのは何度目だろう。
ー会社の飲み会なんかクソ食らえだ。
……せっかく彼氏家に来てるのに。
ーあくまで顔出すだけでいいからさ。
2次会前にパーッと挨拶して帰っちゃいなよ!
先輩はそう言うけれど。
……その時間、彼といたいな。
早く抱きしめて欲しいな。
早く会いたい。
不味くはないけどそこまで美味しくもないおつまみ。面白くもなければつまんない相槌。
社会人だから、付き合いもいるけどさ。
ぼちぼち終わりそうな空気を掬って、さりげなく帰り支度。
「あれ?帰んの?」
めざとく見つけたのは同じ部署の後輩くん。
ー酔った勢いで、タメ口かよ。
軽く舌打ちすると酒臭さの中にねっとりした眼差しを込めて、視姦するように見つめてきた。
「いや〜、〇〇さんいないと僕酔い潰れちゃうなあ」
ー他の女にも散々言ってるんでしょ。
そう思いながら一瞥をする気もなくコートを翻した。
「そういうのいらないんで。家に大好きな彼氏待ってるから帰ります。」
大好きなにおい。
大好きな腕。
あたしの居場所はそこなのだ。
ーどんなに高級な料理より彼の作った手料理がいい。
早まるヒールの音が動悸をより急かすみたい。
「ただいまぁ〜…」
なんでこんな疲労困憊なの、あたし。
「おかえり?早かったね、会社の人大丈夫だった?」
「……後輩もどきに絡まれてウザかった。でも言ったよ?家で大好きな彼氏待ってるって」
「何、もどきって。」
フフッと嬉しそうに目尻を下げる。
「なんか軽くは食べたんでしょ?明日にする?一応好きなやつ作ってあるけど……」
「え、いいにおい。もしやビーフシチュー?」
「そ、正解。」
「え、食べるー。嬉しい、先にお風呂入ってくるね」
「はい、ごゆっくり〜。」
あたしと同じでくたびれた服を脱ぎ捨て、
バスルームの扉を開けると、ふわっと香るあたしの好きな入浴剤の香り。
「あ〜……」
湯船には色とりどりのお花が浮かべられている。
「うそ〜……嬉しすぎる、泣いちゃいそう……」
おまけに脱衣所にはずっと欲しがってたルームウェアがある。淡いピンクのやつ。こないだも言ってたやつ。
可愛い。綺麗。嬉しい。
感情の洪水が極彩色になって涙に変換される。
「嬉しいよぉ……」
濡れ髪と嬉し涙でぐしゃぐしゃな顔を、一度お花だらけの水面に浸けて、ごまかした。
「お風呂、いかがでした?お姫様」
どことなくにやにやした彼の顔を見たのは一瞬。
「……ん……っ」
有無を言わさずに唇を重ねて、なんどもなんども食むように吸うように口付ける。
「……ずるい、嬉しい、ありがと。」
「ふふ、感情迷子じゃん。」
そう言いつつも、見上げたら満更でもない彼の顔がそこにあった。
抱きついたままで、湯上がりで湿った指先を徐々にあたしと繋がれる部分に持っていって、さする。
「……あたしにも愛させてよ。悦ばさせてよ。」
彼の腰まで顔を下ろして膝をつく。
ゆっくりとベルトを外して下着を下ろすと、期待した熱を帯びた固まりがそこにあった。
「……もう先が濡れてる。もっと気持ちよくなってね?口の中に出して良いよ、いっぱい。」
見上げた顔はすでに余裕ない。
激しく早くなる吐息。
「あなたの味する。好き。洗ってないのも。」
舌の先を尖らせて、彼の先端の割れ目に入る。
同時に飛び跳ねる彼は、世界一可愛い。
気持ち良さそう。いいよ、あたしでイって。
「うあ……もうダメかも……」
返事の代わりに喉奥まで、深く咥え込んだ。
口内の粘膜ぱんぱんに彼が主張してくる。
右手で彼の腰を強く押さえつけて、左手で睾丸を弄る。
ー逃げられないよ?
ここも、固く締まって絶頂を待ち侘びてる。
「あ……イく、イく……」
ほどなくして、熱いツンとした青臭い液体が口内に放出された。
苦くて、酸っぱくて、雄の味。
あなただけの味。
全てを舌で絡め取って、全部飲み干した。
愛してる。全部……
2次会のお通しは、ここまで。
……次は、何をオーダーする?
2次会は、自宅にて。 春耳蜜 @harumimimitsu
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