エール&ラガー
春嵐
エール&ラガー
「エールを」
「じゃあ、俺はラガーを」
おさけ。目の前に運ばれてくる。
「あ、もうひとつずつ。大ジョッキで。無いならピッチャーでもいい」
奥に店員が下がる。どうやら、新人らしい。
「どこの店も、ああやって新しく人が入るんだな」
「企業の新陳代謝ってやつだ」
「乾杯」
「おう」
ジョッキをぶつける。鈍い音。
「はあ」
エールが空いた。ラガーは、少ししか減っていない。
「最初にしては行くね?」
「疲れたからな」
面倒な仕事だった。
「何体殺した?」
「0体」
「俺のほうは3体だ。3日後は筋肉痛だな」
「身体揉んでやろうか?」
「頼むよ」
エールが空いた。
「呑む?」
「呑む」
ラガーが渡される。右から、左に。
同時に、ピッチャーが運ばれてきた。
「おお。来ちまった」
「呑んでいいよ。ぜんぶ。こっちは新しいの呑むから」
エール。
ラガー。
減っていく。
「先程は失礼しました」
店長。サーバーを引っ提げてきている。
「エールと、ラガー。こちらに」
「おう。助かるよ」
「いまチーズを焼いていますので」
「いいね」
「新人がびびってましたよ。客がひとりで会話してるって」
「まあ、そうなるな」
「二重人格なんて、そうそう会えるもんでもないし」
「慣れれば解るんですけどね。わたしも最初は解らなかったですよ」
「男が俺で」
「女がわたし」
「同じ声ですもの」
「まあ、そうだな」
「胃袋は同じなんですよね?」
「味覚は別だけどな。右がラガーで」
「左がエール」
エールと、ラガー。
ひとり。そして、ふたり。
エール&ラガー 春嵐 @aiot3110
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