リピートアフターミイ

師走 こなゆき

1

 ――もうそろそろか。


 ベッドに横たわった身体を上半身だけ起こす。


 壁にかけられた時計を見た。照明をつけていない、外からの明かりだけが光源の暗い部屋では分かりにくいが、丁度日付が変わる時間のようだ。


 僕が窓を見るのとほぼ同時に、触ってもいない窓は音を最小限に抑えるように、ゆっくりと開いてゆく。


 窓が開いてゆくにつれて、部屋の中に冬寄りの秋といったような冷たい空気が流れ込んでくる。


「こんばんはー!」


 夜中に出しては近所迷惑になりそうな程の大きな声量で元気に挨拶をしながら、女の子が飛び込んできた。


「ね、りーくん。驚いた?」


 ベッドの隣に立ち僕の様子を窺う女の子に、りーくんと呼ばれた僕は「ああ、驚いたよ」と少し呆れ気味に返す。りーくんという呼び名は僕が小さい頃からのもので、幼かった頃は親しい間柄での呼び名なのだと何も疑問に思わなかった。小学生高学年くらいからだろうか、男なんだと自覚が出てきたのか、りーくんという呼び名が自分には可愛らしすぎる気がして、やめてほしいと彼女に何度か伝えた覚えがある。彼女は呼び方を変えるつもりは無いようだが。


「もう。驚いてるんだったら、もっとそれっぽくしてよ。リアクションが薄い。つまらない」


 言って女の子は口を尖らせ、大袈裟な身振りでそっぽを向いた。


 いつもの事なんだから、いつまでも驚けるはずないだろう。


 窓から豪快に飛び込んできた女の子――美依ミイとは親同士が仲良く、僕達は同じ年に生まれて,保育園から中学校まで同じ所に通っていた。いわゆる幼なじみというやつだ。家も隣同士だった。


「さ、りーくんデートしよう」


 彼女は嬉しそうに手を差し出し、僕を誘う。


 昔から変わらない、いつものミイだ。


 僕が断ったところで理由も聞かず、強引に腕を引っ張ってでも連れ出されるのは分かりきっている。だから僕はいつもと同じように答える。


「分かったよ」


 男子の中では物静かだった僕。女子の中では活発だったミイ。インドア派の僕を外に連れ出すのはいつも彼女だった。

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