第2話
「なに?」
「え……、えっと……」
本当に、この窓が開くとは思ってもいなかった。
もちろん開閉可能なことは知っていたけれども、私にとってこれは常に開かれざる窓でしかなかった。
上からじっと見つめられているのに恥ずかしくなって、目線を落とす。
「あ、あのね、今そこの菜園に……」
ガラガラと、校舎の中から扉の開く音が聞こえた。
彼は振り向く。
小さな足音が聞こえて、誰かが何かを話しかけた。
「本間くん。あ、ゴメン。今、ちょっといいかな?」
「……いいよ」
窓から彼の姿は消える。
中の様子は分からない。
私はただ、いつもと変わらない見慣れた校舎の壁を見上げている。
「あ、あのさ……。私、ずっと本間くんのことが好きで……。よかったら、付き合ってください」
「……。うん、分かった。いいよ」
思い出した。
私は動物の死骸を必要としていた。
土とは、岩石の粉や欠片から出来ているんじゃない。
そこに有機物が混ざってこそ、本物の土となる。
つまりそこには、このカラスは必要なものだった。
死んで役に立つのなら、それで本望じゃない?
細かく砕けた岩や砂に、雑菌が住み着き、苔やキノコが生え、植物や動物の死が混じる。
するとやがてそれは、栄養豊富な腐葉土へと変わる。
そうやって出来た土から、花や木はすくすくと育ち、生き物の餌になる。だからいつだって、死体は必要な存在なのだ。
穴を掘った。
カラスを一羽埋めるような穴だ。
簡単に掘れる。
私はその穴をジャガイモ畑ではなく、ツツジの根元に掘った。
校内のこんな場末に植えられた、誰に見られることもないツツジだ。
今が盛りと咲き誇っていても、特段珍しくもないピンクの花だ。
これをここに植えた人間は、何を思ってこんなところに植えたのか。
ツツジはここがどんな場所か意味も分からず、無駄に咲いている。
くるくる高い声で笑う、たった今出来たばかりの彼女の声が聞こえる。
出来たての彼氏は静かにそれに応えた。
真新しい彼女にせがまれて、彼の指が滑り始める。
再び奏で始めたピアノを背景に、私はまた草を摘む。
大きくて立派なジャガイモが育つようにと、願いを込めて。
だって、もうすぐ世界は滅ぶんだよ? 何したって、意味なくない?
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