ep01*はじまり
これは推しと出会った中学生の頃。
母に連れられて舞台を観に行ったのがはじまり。
舞台の上で一際目立つその姿に一瞬でトリコとなった。
『あの人カッコいい…』
大人の余裕、そして色気。スラっとした立ち姿に骨張った骨格。色素は薄く、顔立ちははっきりしている。
ああ、なんて美しいんだ。こんな人、この世の中に存在するのか。
そう思うくらい当時の私にはキラキラ見えた。
まあ、今もそう見えるんだけど。
その日からというもの、私は推しが出る舞台は観に行けるものには足を運んだ。ただただ肉眼で推しを観る。それが私の幸せ。
あまり客席に人は居らず、運のいい日は貸切状態。
ファンとして、最高の時間。死んでもいいと思った。
しかし、その幸せは続かなかった。
舞台に運んだ足は次第に遠のいた。
私生活が忙しいあまりに、私の推しへの時間が削減してしまった。
また、この頃から次第に周りが彼氏を作り始め、我も我もと彼氏を作り始めた。
推しはその間も舞台にで続けていたことは知っていたし、何度も観に行こうとした。
でも、舞台を観に行かなかった間に推しはだんだんと人気が出て、今や大スターとなってしまった。
あの頃よりも遥かに遠くなった推しとの距離。
今までフラッと立ち寄れた舞台も、いつだって手に入るチケットも今ではそうもいかず、チケットは入手困難に。
悲しくなり、私は気づいた。
ああ、推しにどのくらい会ってないのかな。
推しがどんどん遠い存在になってしまうな。
舞台上でのあのキラキラした姿も推しの存在が何よりも私の中でのいちばんだったのに。
この時私の中でパチンと何かが破裂した。
そう!!!
私の中で!!!
推しは!!!!
いちばんだから!!!!!
推しへの想いが高まって、付き合っていた彼氏と別れた。
『ごめんね。なんか、その…』
切り出しにくかったが、彼は笑って受け入れてくれた。
こうして流れに任せて付き合った私の初恋は呆気なく、そしてサラリと終わった。
そんな甘酸っぱい6月の日。
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月日が経ち私は大人になった。
歯科衛生士になることが夢だった私は、今は小さな会社で事務員として働いた。
あれから恋人は作らず、ただひたすら推しをこっそりと応援した。
あれから舞台は数える程しか行けてはないが、この世の中サブスクで推しの出演する映画を何度も観た。
「はあ、さいっこう…」
お酒片手に推しを観る。舞台だけじゃなく最近は映画やドラマに引っ張りだこで、いつだって好きな時に観ることのできる推しに合掌をしながらぐいぐいとお酒を飲んだ。
ありがとう推し。
ありがとうサブスク。
ありがとう、全てのもの。
いつものように酔いが回りいつのまにかリビングで眠ってしまった。
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