マッチ売りの藤原竜也
ちびまるフォイ
※ 音量注意 ※
「マッチ? マッチを売れって? ウソだろ……?」
「ウソではない。話は以上だ。さぁマッチを売ってこい、マッチ売りの藤原竜也」
「あんた正気じゃねぇよ!! こんなマッチをこの寒空の下売ってこいなんて、まともな人間の言うことじゃねぇよ!!」
「……」
「あ?」
「いいから売ってこいマッチ売りの藤原竜也。お前は私のもとで生まれそして生きてきた。
それにどれだけ金をかけていたのかわかるか? あぁ?」
「な、なんだよ……」
「金をかけ、時間を使って、心を砕いた結果がこのざまだ!
お前はいま、どうしようもないクズとしてこの世に生を受けている!!
その恩に報いるどころか口答えをしてはこの温かい家の中でぬくぬくと明日も暮らせるなどと臆面もなく信じている!!」
「ち、ちがう……」
「私はもう疲れた! ここまで育てたお前に価値があったのだと自分で証明してみせろ!
そうでなければ私は知らん!! 売れ! お前に残されたのはマッチを売ることだけだ!
売って人生に勝て!! 勝たなきゃゴミ!! ゴミのように死ね!!」
「狂゛ってるよ!! こ゛ん゛な゛の゛人゛間゛の゛や゛る゛こ゛と゛じゃ゛ね゛ぇ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
藤原竜也は雪が降りしきる町にマッチを持たされて追い出された。
そのマッチもどこからかもらってきたマッチばかりで、ちゃんとした商品じゃない。
「ちくしょう、雪がキンキンに冷えてやがるっ!!」
その日はとくに雪が冷たく降り積もっていて、道を行き交う人は足早に温かい家に戻ろうとしています。
「マッチ……マッチ買ってくれよ……なぁ! なぁって!!」
藤原竜也は必死にマッチを渡そうとしますが、
どっかのいかがわしいホテルからもらってきたマッチをわざわざ金を出して買うもの好きはいません。
「こ゛ん゛な゛場゛所゛で゛死゛ぬ゛わ゛け゛に゛は゛い゛か゛ね゛ぇ゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!
マ゛ッ゛チ゛買゛っ゛て゛く゛れ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛」
どんなに藤原竜也が叫んでもマッチは売れません。
手がかじかんできたので藤原竜也はマッチを1本すってみることにしました。
すると、マッチから暖かな火とともに、美味しそうな料理が見えてきました。
「ああ……焼鳥に、ポテチ……食べたいなぁ……」
と、思ったらその食べ物は幻想の中で悪い人に食べられてしまいました。
わずかな夢の中でさえ絶望へと藤原竜也は落とされてしまいます。
「いるんだよな、あんな人間……。追い詰められた弱い人間が最後にたどり着いた場所ですら
そいつらを苦しめてくるような……昼みたいな人間がっ……!」
藤原竜也はもう1本のマッチをすろうとすると、
今度はその手を警察が止めました。
「ちょっと君。こんなところで火をつけるんじゃないよ」
「いやこれは寒くて……」
「もしかして放火しようとしてたのか? 服装もみすぼらしいし……怪しいな」
「ちがうって! 信゛じ゛て゛く゛れ゛よ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛」
放火魔だと決めつけられた藤原竜也は警察に思い切り締め上げられました。
「本当のことを言え! 放火しようとしてたんだろ!!!」
「俺゛は゛放゛火゛犯゛じ゛ゃ゛な゛い゛信゛じ゛て゛く゛れ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
藤原竜也が何度叫んでも結局信じてもらうことはできずに、
売り物であったマッチは没収されてしまいました。
売れないと家には入れてもらえないし、売れるものはすでになくなった。
手元にあるのは微妙に封を切ってしまった使いかけのマッチ箱だけ。
「みんなみんなおかしいよ!! なんでこんなかんたんに人を追い詰められるんだよ!! こんなの全然納得いかねぇよぉぉ!!」
藤原竜也がどんなに叫んでもマッチもなければ客もいない。
まさに持たざるもの。そこにいるのは一匹のクズでしかなかった。
コンコンッ……。
深夜、ノックの音に目が覚めた父親はドアを開ける。
空っぽのかごをもった藤原竜也がドアの向こうに立っていた。
その肩にはどっさりと雪が積もっている。
けれど父親はそんな限界状態の藤原竜也をかえりみることもなく、
もたせたカゴに少しもお金が入っていないことに眉をひそめた。
「お前……マッチは? 売ったんじゃないのか?」
「取られた……放火だと疑われて……それで……」
もはやそんなことは聞いちゃいなかった。
父親は激高して藤原竜也をボコボコに殴り始める。
「貴様ァ!! マッチ持たせて外に出せば多少は貢献するかと思った私がバカだった!!
金を集めるどころか、売り物をただ失ったうえ家に戻れると思ったのか!! 恥知らず!!」
藤原竜也は外へと蹴り出されてしまった。
「二度と戻ってくるなこのごく潰し!! 人間のクズ!!」
ドアを閉めた父親が振り返ると、そこには鬼のような表情の妻が立っていた。
「これ、なに?」
その手にはいかがわしいホテルのマッチ箱が握られていた。
どう頑張っても隠しきれない浮気の証拠そのものだった。
「あ、あいつ……! 家に戻ってきたのはそのためかぁぁ!!!」
父親はキレてまだ外に放り出されたままの藤原竜也の胸ぐらを掴んだ。
「あんたがマッチを俺に押し付けたとき、最初は意味がわからなかった。
本当はマッチを売るのが目的じゃない。マッチを家から捨てさせるのが目的だった、そうだろ!?」
「貴様ァァ! 謀ったなァ!!」
「ああ謀ったよ!! で゛な゛き゛ゃ゛俺゛は゛生゛き゛ら゛れ゛な゛い゛か゛ら゛な゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「こ、こンのっ……!!」
「あんたは大人だから優秀だ。自分の子供がまさか自分に牙を向くとは思わない。
そりゃそうさ人生経験も俺なんかよりずっとあるんだからな。
おごるよな……! おごるに決まってる! こんなクズが自分を出し抜くとは思わないだろ!!」
「んぐぐぐぐっ……!!」
「これまで何でもいいなりにできたんだから、今日もそうだと思ったんだろ!!
そのおごりをうったんだよ!! このみっともねぇクズがッッ!!」
「んんぐあぁぁぁぁーーー!!!」
マッチ売りの父親は浮気を理由に家を追い出され、今では町でマッチを売る仕事をするようになった。
藤原竜也ははれて家の敷居をまたぐことができた。
テーブルには夢にまで見た焼き鳥などの豪勢な食事が並んでいた。
「や゛っ゛た゛ぞ゛ー゛ー゛!! 勝゛っ゛た゛!! ゛俺゛は゛勝゛っ゛た゛ん゛だ゛ーー!!」
・
・
・
藤原竜也は体に感じる揺れで目が覚めた。
「こ、ここは……?」
空には暗雲がたちこめていて、足元はぐらぐらと不安定に揺れる。
周りが海に囲まれていることでここが船だとわかった。
「おいあんた! 早く船を引き返してくれ! 誰かに騙されて連れてこられたんだ!」
「引き返せだなんて何言ってるんですか。もうすぐ目的地ですよ」
「目的地……?」
藤原竜也が船の進む先へと目を凝らすと、
大きく口をあけた鬼ヶ島が船の到着を待っていた。
「あなたはこれから借金を帳消しにするためにあの鬼ヶ島の鬼を倒してくるんですよ」
船頭の言葉に藤原竜也は叫んだ。
「な゛ん゛で゛ハ゛ッ゛ピ゛ー゛エ゛ン゛ド゛に゛し゛て゛く゛れ゛な゛い゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
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