アナザーアース~地球が異世界だったとしたら…~
花道優曇華
第1話「隻腕と緋色そして黒髪」
ここは地球と呼ばれ、現代と酷似した地形が存在する。だが中身は全く違う。
大抵、異世界と呼ばれる世界であり私たちが住まう地球の並行世界と考えて欲しい。
人間、エルフ、獣人…多くの種族がこの世界に入り乱れている。
リベルタ王国という国。それなりに巨大な領地を持つ国を主な舞台とする。
「とんでもない大遅刻だね」
馬車を降りた二人組のうち、長い金髪を持つ魔法使いの女が呟いた。
彼女の名前をリアナ・スカーレット。緋色の魔女は王国きっての魔術師の
一人として有名で隣に立つ少女を新たな王として推薦した。
メルヴィナ・サフィーロ。
かつての王国の王族、彼らの特徴は黒髪に澄み渡った青い瞳を持つこと。
だが時代と共にいつの間にか王族の特徴は白髪に緑の瞳へと変化していた。
「ここからは私のエスコートではなく、彼のエスコートで向かうとしようか」
「エスコートできるかどうかは分かりませんよ。リアナ様」
王国騎士であることを象徴する制服を着た若い男、青年と言っても良い。
リアナの言葉に謙虚な態度で答えていたが気品に溢れた動作をする騎士は
メルヴィナを見て微笑を浮かべる。そのまま片膝をつき、顔をあげる。
「王国騎士団、団長ベディヴィア・グリムと申します」
「団長…!」
「といっても肩書だけです。この腕では、他の騎士のように自由に剣を
振るうことすら出来ない」
彼は片腕を見せた。力なく揺れる袖の先にはあるはずの物がない。
「隻腕の騎士さ。さぁ、王城に堂々と入ろうか。楽しみだよ、根の腐って
しまった老人たちが目を丸くする瞬間がね」
「悪い顔してるよ、リアナさん…」
何処かゲンナリとするメルヴィナ、そして何かを狙って不敵な笑みを浮かべる
リアナの前に立ち、重い扉をベディヴィアは開いた。
更に奥に進めば再び扉。
国王選挙として僅かな人数が揃っていた。亡き王に代わって政治を担っている
聖老院の老人たちが口を開く。
「では、これで国王選挙参加者の決意表明を―」
「待ってください。まだあと一人、残っております」
一人の騎士が声を上げた。この国には剣聖が存在する。この世代に存在する剣聖は
歴代屈指、最強の騎士。
「レオンハート・グーンベルク・ファレル…」
「王国騎士団団長ベディヴィア・グリム殿が来ておりません。そろそろ来るかと
思います」
その言葉の後に扉は重々しい音を立てて開いた。見えたのは三人。
女性、少女、男性。
リアナ・スカーレット、メルヴィナ・サフィーロ、ベディヴィア・グリム。
「遅れて申し訳ありません。最後の候補者、メルヴィナ・サフィーロ様を
お連れしました」
赤いカーペットの敷かれた階段と踊り場。そのステージに立った少女は
黒いベールを外した。艶やかな黒髪と空のように澄み渡った青い瞳を持つ。
建国をした初代王族たちと同じ身体的特徴を持つ少女の姿に
老人たちが目を丸くする。
「この国は腐ってしまった。権力ばかりを欲して、自分の保身だけを
気にするばかりで逃げ腰の人たちばかり。緋色の魔女リアナ・スカーレットより
話を聞きました」
メルヴィナは静かに、しかし感情を込めて話す。リアナを見た後に横目に
ベディヴィアを見た。彼は依然として前を見つめたまま。
「人を下に見て、救う人を選別して…平等を掲げている国の代表者が
聞いて呆れる!!私の願いはただ一つ!!―国に真なる平等、公平、自由をッッ!!」
と、大きな声で宣言した後に
「あ、でもこれはなれたらの話。無理強いはしないよ。選ぶ権利は私じゃなくて
国民全員だからね」
段から降りた。最前列に並ぶのは次期王になる資格を持っている人物。
彼女たちに従う者たちは別の場所に並ぶ。
式典が終わった後は簡単な交流会なるものが開かれていた。
「こんな事ならアスランも連れてくれば良かったなぁ…」
アスラン・コルニクス。メルヴィナに仕える使用人の男。彼はいつも
誰よりも早くに起きて、誰よりも多くの仕事をして、誰よりも遅くに
眠りにつく。まぁ、リアナ曰く最後の一つに関しては本当は
寝ていない説があるのだが…。
「あの仕事人の事だ。行くつもりなど毛頭ないだろう。主人、そして
他の人々ファーストな男だからね」
「そうだよね…来て、くれないよね…」
リアナは空になったグラスをテーブルに置いた。
「その分、君が楽しめばいいのさ。こんなにも華やかなパーティーは
滅多に無いから」
リアナが席を立ち、その場を離れた。また別の場所では候補者に従う
騎士たちが集まっていた。
「ヒヤヒヤしましたよ。式典が始まった頃に来ていなかったので」
そう言ったのは剣聖ではない。淡い緑髪の騎士、ナルサス・グルウィンド。
心配していたと告げた彼に対してベディヴィアは苦笑交じりに謝罪する。
「リアナ様から頼まれたんだ。お前たちのように自分から探して従った
わけでは無いんだ」
「逆スカウト…みたいな?」
聞いて来たのはミシェル・シャルル。騎士団では数少ない女性騎士だ。
彼女は治癒魔法に秀でている。彼女だけは集まっている四人の中で候補者と
組んではいない。が、そのことを本人は何も気にしていない。
「そうなるな」
僅かな騎士がヒソヒソと話す。脆弱な女が騎士団に入っていることに対して
反対意見を持つ人物がいても不思議ではない。
ベディヴィアが団長になってからなりたい者は拒まず、男女問わず採用した。
騎士団史上、初めて女性を平等に扱った騎士である。
「確かに納得していない騎士は多いかもしれませんけど、忘れないでください。
騎士団長、貴方を慕っている者も多いのですよ」
ミシェルの言葉にベディヴィアはただ微笑を浮かべた。
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