初めての一人旅

@kijib

第1話

大学を卒業して実家を出て一人暮らしを始めた。実家は駅から遠く、通学に苦労したことの反動で駅から歩いて5分のアパートを選んだ。


最初は週末に近くの大きな街へ買い物に行くところから始まった。買うと決めているものがなくても、ふと思い立ったらすぐ電車に乗った。駅から近いだけでなく、どこに何をしに行くのか家族に伝えなくていいということも、足を軽くした。


そのうち上着が要らなくなり、会社帰りにまだ日が暮れていなくて、汗ばんでふと最寄り駅でジュースを買った。そのとき、自販機の横にどこかの夕焼けと青い海と、その間をのんびり走る古びた1両の列車のポスターがふと目に留まった。それは青春18きっぷの宣伝ポスターだった。


そうか、家族に言わずにふらっと旅行に行ったっていいのか。次の日はちょうど休み、早速切符を買って、まだ暑くなる前に電車に飛び乗る。鈍行列車に終点まで乗っては、次の列車に乗り継ぎ、また終点まで乗る。これを繰り返すうちに、お昼には隣の地方の有名なお寺の名前を冠した駅にたどり着いていた。


こんなところ、大掛かりな旅行でしか来られないと思ってた…、と今いる場所のことを信じられずにお寺の階段を登った。何からも縛られずに行きたい時にどこへでも行っていいんだ、と知った。


ここから、全都道府県を制覇するまでに1年とかからなかったのであった。

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