第2話 時雨崎杏
その少女と俺、
友達と言うには近過ぎて、恋人なのかと言うには遠すぎる。
女友達と言うよりは何故だろう、主と下僕って表現が自分のなかでピッタリと一致する。
悲しいかな、恋愛対象として俺は見たことがない。
基本的に俺は呼ばれれば犬のように彼女に従ってしまう。
容姿端麗。成績は上位だし、周りの皮被りも上手い。
オマケに空手二段で、この前付き合わされた買い物途中の電車でセクハラしてきた大人を組み伏せて倒している。
そして優しいのか、手厳しいのか分からないが俺が本気で何かに悩んでいると後ろから小突いてくる。
かなり手加減してくれているのは分かっている。
だが励まそうとしてくれているなら口で言えばいいのにと毎度思うのだ。口下手ではないのに不思議と。
「……」
呼ばれて戯れる犬のように、急ぎ足で外へ出て直ぐにお隣のチャイムを鳴らした。
時刻は夜の八時半。
また廃棄物みたいな味がする杏お手性の何かを渡されるのか、心中ハラハラしながら扉が開くのを待っている。
するとスリッパのパタパタした可愛らしい音が聞こえ、扉が予備動作なくいきなり全開で開く、そして俺の顔面に当たる。
一瞬、光が見えて体勢を崩したままうつ伏せで倒れた俺を見て駆け出してきたのは杏、じゃなくて杏の双子の妹である
「ご、ごめんなさい!?大丈夫!!」
「大丈夫だ菫ちゃん。それより杏は?」
何度も謝りながらアワアワしている菫。
悪気がないのは分かるし、俺も目の前な居たのは悪いけど、理不尽だ。
鼻から大量の鼻血が出ていたが見えないように手のひらで拭うと平静を装う。
痩せ我慢だ。
「お姉ちゃんは今、お菓子を盛り付けしてて、その花君に渡そうって言い出したの私なのごめんなさい!」
「いや大丈夫、この通り鼻が赤くなった程度だし」
見るからに目に涙を浮かべてこれから泣きますよ?泣いちゃいますよ?な状態の菫ちゃんがガチで泣きしそうなのだ。
あまり心配させてると俺が問答無用で杏にぶっ飛ばされる。
「遅いわ……って何してるの?」
鼻血を無理矢理啜り、口の中が鉄臭くなりながらの俺と必死に頭を下げる菫ちゃん。
傍から見ればなんとも奇妙な光景がそこにはあった。
その後、無事にお菓子を貰う。
しかし帰ってきた瞬間に妹に半分以上食べられた。反応は……どうやら大丈夫みたいだ。
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