十匙




 夢を見た。

 私がラルガさんに直接、あの鼻歌を奏でる方法を教えてくださいとお願いすると、ラルガさんは言った。

 アンドロイドではないとこの鼻歌は奏でられません、と。


 アンドロイドになりますか。

 ラルガさんは私に尋ねた。

 アンドロイドになれば、人間でいるよりも、もっとたくさん日本語に触れることができますよ。

 ラルガさんは私に言った。

 確かにそうですね。

 私はラルガさんに言ってから、考えた。

 人間でいるよりもアンドロイドになった方が寿命は長くなるし、取り入れられる情報量も格段に増大するだろう。


 人間はあらゆるものを使って寿命、能力を引き延ばしてきたが、やはり限界がある。

 人間のまま、寿命も能力も引き延ばすには限界が、ある。

 だから、人間を止める人間も居る。

 生まれた時の身体を全部とっかえひっかえして生きる人間も居る。


 人間を止める。

 人間を止めるとはどういうことだろう。

 私は人間ではないと宣言すれば、人間ではないのだろうか。

 人間だった時の身体をすべて失くせば、人間ではないのだろうか。

 

 夢とは便利なものだ。

 人間の定義を調べたいと思ったら、答えが出て来た。

 なになに。


【「人」を「言葉をもって協同して労働する共同体」としてとらえかえすとき人間という】


 ふむふむ。

 うーん。


【人間は知恵をもち、理性的な思考能力をそなえた存在】

【人間は道具を使って自然に働きかけ、物を作り出す存在】

【人間は自らを超えるものに目を向け、宗教という文化をもつ存在】

【人間は日常から離れて自由に遊び、そこから文化を作り出す存在】


 ふむふむふむふむ。

 うーんん。




「つまりおめえ。にんげんやーめたって言って、宇宙の果てに行って、人に会わない隠遁生活を送れば、人間を止めたことになるんだよ」




 それって仙人じゃないの?

 のばらがそう言った時、一瞬にして暗闇が広がったかと思うと、今度はぺりゅみいの顔が視界いっぱいに広がった。


「………おはよう」

「おはよう、ぺりゅみい」

「寝言が多かったぞ」

「あ~。そっか。夢だったんだ」


 のばらは起き上がると、ぺりゅみいにありがとうと言ったのであった。











(2023.7.18)



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