八匙




 失礼しました。

 勢いよくリュックサックから飛び出したぺりゅみぃはしかし、ラルガに視線を合わせると、ぺこりと一礼、サササッとリュックサックの中へと戻って行った。


 失礼しました。

 のばらもぺりゅみぃに倣ってラルガに一礼すると、説明し始めた。

 手紙のやり取りをしてお互いを知っていこうと思ったこと。

 何を書けばいいか思いつかず、直近の話題である二人の部屋についてどうすればいいかを訊けばいいと思いつき手紙にしたためたこと。

 けれどこうして面と向かい合っているのだから、話し合えばいいと思い返し、口頭で伝え直したこと。


「ああ。いえ。そんな。謝らないでください。お気持ちはよくわかりましたので」


 ラルガは両手を大きく何度も振り続ける中、情けないなあと思った。


(学習しないなあ、本当に。これまで九十九人の方たちと結婚生活を送って来たのに)


 本来ならば、相手の気持ちを察して、余裕のある態度で、言動で、対応できて当然の経験も年数も過ごしてきたはずなのに。

 未だに慌てふためいて、切羽詰まって、思考回路を駆け巡らせて、相手を喜ばせる、安心させる正解を導き出すことができない。


(僕は本当に、人間に寄り添うことができていない)




「ラルガさん」

「はい」

「あの。えっと。二人の部屋、どうしましょうか?私は。内装は、何でも、よくて。あ。この家はどこも素敵でくつろげるのでどこの部屋でも変えなくてよくて。新しく部屋を作る必要もなくて。ただ。あの。こうして長いソファに並んで座れる時もあれば、向かい合って座れる時もあればいいと思いました。あと。ラルガさんのお茶、とても美味しかったので、二人で過ごす時は、淹れてくれたら、嬉しいです。どうぞ」


 おずおずと、のばらから手を向けられたラルガは、不思議と気持ちが落ち着いていたので、ゆったりとした口調で返事をすることができた。


「では、ここが二人の部屋だと、部屋を固定しないで、その日の気分で色々な部屋を過ごしませんか?」

「はい。すごく楽しみです」

「お茶も淹れます。手紙も書きます。いつでも好きな時に渡し合いましょう。手紙の内容をまた口頭で伝えてもいいと思います」

「ありがとうございます。あの。ラルガさんは、何か、したいことはありませんか?」

「えと。したいことと、言いますか。お尋ねしたいことが一つ、あります」

「はい」

「お茶の味が美味しいと言っていただきましたが、もっと、濃かったりとか、薄かったりとか、甘かったりとか、苦かったりとか、要望はありませんか?」

「はい。今日の私は、今日のラルガさんのお茶がとても美味しかったので、こうしてほしいとか、要望はないですが。明日の私はわかりません」

「あ。はい。わかりました。では、遠慮なく言ってください」


 目を瞬かせたラルガは、次には胸を大きく手のひらで叩いた。

 のばらは、はいと、言った。

 真剣な表情だったラルガとのばらは、顔を綻ばせていた。











(2023.6.28)



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