第37話 〈樹海宮〉の中
ここは、元からこんなふうだったのか。それとも、お宝を隠すときにあちこち手が加えられ、こうなったのか。〈樹海宮〉の中は、迷路みてえに入り組んでた。
壁、床、天井――すべて石造りの廊下が、左に曲がり、右に折れ、何度となく枝分かれして、奥へと続いてる。いくつもの階段、いくつもの部屋。これじゃ、
もちろん、明かりなんざねえから、松明で周囲の闇を照らしつつ、慎重に進まなくちゃならねえ。しかもこの遺跡、あちこちに罠や仕掛けがあって、それらは今でも健在ときてやがる。おかげでこっちは、進みにくいのなんのって。
突然、左右の壁が迫ってきたり、天井が崩れたり……廊下の曲がり角や階段の踊り場、広間の四隅に置かれた
いつもなら、こういう罠や仕掛けを突破していくのは命懸けの反面、楽しいもんなんだがな。残念ながら、今は違う。俺の心はどんより曇ったまま、いつまでたっても晴れなかった。普段なら驚きと興奮に満ちて、背筋がぞくぞくするほど楽しい冒険が、今は面白くもなんともねえ。足取りは重く、剣を持つ手もなかなか上がらねえ。手足に鉄の鎖をつけて、ずるずる引きずってるみてえだ。
だって、そうだろ? この先にゃ奴が――親父の仇がいるんだ。外に残ったおっさんのことも気になるし、正直言って今は冒険どころじゃねえよ……!
地下へと続く階段を見つけて下りようとした、そのときだった。
「待て、メリック!」
後ろを歩いてたデュラムが俺の両肩に手をかけ、力任せに引っ張った。それから一拍置くか置かねえかのうちに――シャキン! 一歩後ずさった俺の鼻面を、左の壁から飛び出した剣の切っ先がかすめる。
「……!」
驚きのあまり、目を見開いたまま硬直する俺。
錆びてはいても、剣は剣。デュラムが引っ張ってくれなきゃ、俺は串刺しになってただろう。
「周囲への注意がおろそかになっているな。いくら間抜けな貴様でも、いつもならこの程度の罠にかかるはずがない」
「悪い、ちょいと油断してたもんだから……」
笑ってごまかそうとしたが、デュラムにゃ通じなかったようだ。
「……油断だと?」
俺の肩をつかむ奴の両手に、ぐっと力が入る。
「私やサーラさんを、そんな言葉でごまかせると思っているのか!」
「デュラム、お前……」
まったくの真顔だった。その凄味を帯びた美しさに圧倒されて、思わず息を呑む俺。
「――メリック。
「確かにそうね。あの魔法使いの顔を見てから、あなた変よ?」
デュラムの肩越しに、サーラが言う。
「あなた、あいつを知ってるみたいね。過去にあいつと何があったの? マーソルさんは恨みがどうとか言ってたけど、本当のところはどうなの? よければ、話してくれない?」
二人の視線から逃れたくて、俺は頭上に目を向ける。見上げた先に、神話の一場面を描いた
……これはもう、隠しちゃおけねえな。
デュラムに詰め寄られ、サーラにも問いただされて、俺は観念した。
「――ああ、わかったぜ」
いっそのこと、全部ぶちまけちまった方がすっきりするかもしれねえ。ここらで話しておくことにするか。
「あれは……今から三年前のことだ」
俺は階段の手すりに背中を預けると、自分の過去について話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます