第34話 この顔に、見覚えは?
「おや、どこへ行かれるおつもりですかな?」
リアルナさんから逃れようとする俺たちの行く手に、あいつが立ちはだかった。
「てめえは……!」
姫さんの腹心、赤
「ここは私がお引き受けしましょう。貴方がたはあちらを――青
と、言葉だくみにおっさんの方へと差し向ける。
「――これで、お会いするのは三度目ですな」
遠ざかっていく戦士たちを見送りながら、男が言った。
「いい加減、名乗ったらどうなんだよ? 名前もわからねえんじゃ、話しにくくて仕方ねえ」
「おお、私としたことが失念しておりました。どうか、お許しを」
ぴしゃりと仰々しく、掌で頭を打つ赤
「私はフェイナ様にお仕えする宮廷魔法使いでしてな。名前は――貴方がたの中には、ご存じの方もおられるのではありませんかな?」
「へっ、そんなわけねえだろうが」
そう言って、俺はデュラムとサーラを見やったが、案の定、二人とも首を横に振った。
当然だろう。俺たちが奴と顔を合わせたのは、昨日が初めてなんだからさ。
ところが――。
「貴方ですよ、貴方。赤い瞳の冒険者殿」
「――え?」
前を向いてびっくり。いつの間にか、赤
「昨夜お会いしたとき、もしやと思いましたが……今し方、太陽の下でお顔を拝見して、確信しましたよ。やはり貴方でしたか。このような場で再びお会いすることになろうとは、これも神々が定めた運命ですかな?」
「な、何わけのわからねえこと言ってやがる? 俺は、あんたなんか知らねえぜ?」
「おや、私をご存じないと?」
さもおかしそうに、男はくすくすと笑う。
「本当にご存じない? 本当に――ソランスカイアの神々にかけて?」
奴は俺の前をゆっくりと行ったり来たりしながら、執拗にたずねてくる。時々首をひねってこっちを見るんだが、その仕草がどうにも芝居がかってて癇に障る。
「無礼だぜ、あんた」
俺はいらいらして答えた。なぜだか知らねえが、かさぶたが張って治りかけてる傷を、針でちくちく突かれてるような気分だ。はっきり言って、不愉快極まりねえ。
「知らねえって言ってるだろ。なんなら、太陽神リュファトに――神々の王に誓いを立ててもいいぜ?」
そうきっぱり断言してみせた途端、
「アハハハハハ!」
男のけたたましい笑い声が弾けた。頭の「ア」に力を入れる、例の嫌な笑い声だ。
「な、何がおかしいんだよ?」
「これはこれは、驚きましたな! あなたが私をご存じないとは! アハハハハハ!」
身をよじって大笑いした後、奴はこっちを向いて、ゆがんだ口許を見せた。
「そういう忘れっぽいところは相変わらずですな――殿下」
俺は思わず目をむいた。こいつ、今なんて言った? 俺のこと、「殿下」って呼ばなかったか?
「あ……あんた誰だ? なんで俺の過去を知ってる?」
俺が冒険者になる前のことは、デュラムやサーラにも話してねえ。もちろん、昨日出会ったばかりのおっさんたちにも。なのにこいつ、どうして――?
「この顔に、見覚えはありませんかな?」
赤
あらわになった顔を一目見て、俺は絶句した。
ぎょろっとした目に鋭い鉤鼻。頬骨が浮き出てみえるくらい、痩せこけたほっぺた。
「これは殿下、今日もご機嫌うるわしゅう」
赤
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