6
非通知着信。
「待たせたな」
電話に出ると、若い男の声がスピーカーから流れてきた。
「アンタは誰だ」
「おいおい、俺の事ならお前も知っているだろう?」
言っている意味が解らなかった。
「とにかく、家の前に居るから出てきてくれないか?」
男は電話を切った。
警戒しながら、外に出るとフードを被った男が居た。男には匂いがなかった。只、圧倒的な威圧感が在った。黒部と初めて対峙した時の様な威圧感だった。
「まさか、黒部なのか……?」
此の威圧感は黒部以外には有り得ない。だが、俺が知る黒部は五十代の男だ。しかし、目の前に居る男はどう見ても三十代前半と言った処だ。
「俺がオリジナルの黒部正春だ。クローンの体は、意図的に成長を早めている。俺の正体を知る者はドルフィン以外、いない。篠崎アゲハも知らない」
「どうして、俺に姿を明かしたんだ?」
黒部の真意が解らなかった。彼は本当に俺の味方なのかが解らなかった。
黒部にはドルフィンに対する怒りや憎しみが在る筈だ。そして、イルカの中にはドルフィンが居る。
「心配するな。今の処、俺は敵じゃない。お前の事を信用したから、此の姿で現れた」
今の処、と言う事は、敵に廻る可能性も在ると言う事だ。
だが、黒部の言葉を信用するならば、其の可能性はかなり低いだろう。
「篠崎アゲハを信用するな」
「どういう意味だ?」
「其の儘の意味だ。俺は自分のクローンの記憶を定期的に回収している。クローンの一人が、ドルフィンの人格をイルカに転移する時に立ち合っている筈だが、其の記憶がない。奴がクローンの記憶を改竄(かいざん)している可能性が在る。確証はないがな」
そう言う黒部から、確信の匂いを感じた。
「俺の勘だが、奴は何かを隠している。其れが何なのかは解らないが、とにかく篠崎アゲハには気を付けろ」
意図が良く解らなかったが、黒部の勘は的外れではないのだろう。俺が知る中で最強のギャンブラーの勘が外れる事は考えにくかった。
「とりあえず、車に乗れ。武藤和幸の身柄を抑えに行くぞ」
そう言って、黒部は車に乗った。
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