非通知着信。


「待たせたな」


電話に出ると、若い男の声がスピーカーから流れてきた。


「アンタは誰だ」


「おいおい、俺の事ならお前も知っているだろう?」


言っている意味が解らなかった。


「とにかく、家の前に居るから出てきてくれないか?」


男は電話を切った。


警戒しながら、外に出るとフードを被った男が居た。男には匂いがなかった。只、圧倒的な威圧感が在った。黒部と初めて対峙した時の様な威圧感だった。


「まさか、黒部なのか……?」


此の威圧感は黒部以外には有り得ない。だが、俺が知る黒部は五十代の男だ。しかし、目の前に居る男はどう見ても三十代前半と言った処だ。


「俺がオリジナルの黒部正春だ。クローンの体は、意図的に成長を早めている。俺の正体を知る者はドルフィン以外、いない。篠崎アゲハも知らない」


「どうして、俺に姿を明かしたんだ?」


黒部の真意が解らなかった。彼は本当に俺の味方なのかが解らなかった。


黒部にはドルフィンに対する怒りや憎しみが在る筈だ。そして、イルカの中にはドルフィンが居る。


「心配するな。今の処、俺は敵じゃない。お前の事を信用したから、此の姿で現れた」


今の処、と言う事は、敵に廻る可能性も在ると言う事だ。


だが、黒部の言葉を信用するならば、其の可能性はかなり低いだろう。


「篠崎アゲハを信用するな」


「どういう意味だ?」


「其の儘の意味だ。俺は自分のクローンの記憶を定期的に回収している。クローンの一人が、ドルフィンの人格をイルカに転移する時に立ち合っている筈だが、其の記憶がない。奴がクローンの記憶を改竄(かいざん)している可能性が在る。確証はないがな」


そう言う黒部から、確信の匂いを感じた。


「俺の勘だが、奴は何かを隠している。其れが何なのかは解らないが、とにかく篠崎アゲハには気を付けろ」


意図が良く解らなかったが、黒部の勘は的外れではないのだろう。俺が知る中で最強のギャンブラーの勘が外れる事は考えにくかった。


「とりあえず、車に乗れ。武藤和幸の身柄を抑えに行くぞ」


そう言って、黒部は車に乗った。

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