菖蒲湯の由来


「むかしむかし、ある所にとても可愛らしい娘がおりました。

 そして、その娘に懸想する蛇が1匹。

 蛇は娘が恋しくて恋しくて我慢ができません。


 ついに蛇は、美しい人間の男に化けて娘に近づき、想いを告げました。

 娘も愛を乞うその男を好きになり、2人は恋仲になったのです。


 ある日、娘の友人が家へやってきました。

 いくら呼びかけても、娘が出てこないのを不審に思った友人は、心配になって家の中に入りました。


 すると、蛇に絡みつかれた娘を見つけたのです。

 何とかして助けようと、友人は縫い針で蛇の目を突き刺しました。

 蛇は慌てて草藪の中に這って逃げていきました。


 友人は蛇を追いかけました。

 薮の中には複数の蛇がいて何やら会話をしています。

『おい、お前。そんなに血だらけになって大丈夫かよ。瀕死じゃないか』

『いや、どんなに血にまみれても、俺はあのひととの間に子を成すことができたんだ。もう死んだって悔いはないよ』


 これは大変だ。

 娘が蛇の子を宿しているなんて。

 友人は心配して、何とかならないかと物知りに相談をしました。


『五月の節句の菖蒲湯に入れば、人間の子のほかは落ちてしまうだろう。心配なさるな』

 物知りはそう助言しました。


 節句の日、菖蒲とヨモギ摘んできて、風呂を沸かし、腹の膨れてきた娘を入れました。

 すると娘から、蛇の子がゾロゾロゾロゾロ出てきて落ちました。

 人々は良かった良かったと喜びました。


 このことが人から人へと伝わり、五月の節句には女性の薬になるということから、今でも菖蒲湯に入るようになったのです。」


     〜民話「菖蒲湯由来」 碧月の意訳〜




 地元に伝わる菖蒲湯の由来の物語はこんな感じです。

 

「蛇と娘は仲良くなった」は体の関係を子供向けにやんわりと表現しただけで、心は通い合っていなかったなら、まだいいんだけど、本当に好きあっていたら…… 。


 菖蒲湯は邪を祓う。という伝承だとは分かっていても、節句の時期にこの話を聞くにつけ、なんか蛇が可哀想な気がするなぁとか。

 娘さんはどんな気持ちだったんだろう? 人々と同じように、ああ良かったって思ったのかしら? とか。

 色々考えてしまう私がいます。


 そして、蛇に同情してしまう私は、娘さんと蛇が穏やかな幸せを手に入れる、ハッピーエンドの恋物語を勝手に妄想してしまったりするのです。



 菖蒲湯に、このような由来があるので、こちらでは、菖蒲と蓬を束ねたものをお湯に入れます。

 (ちなみに、旧暦の5月5日にやる人が多いかな。)


 皆さんの地域では、どんな菖蒲湯に入るのでしょうか。

 

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