劇場版探偵ソウカナ vs《無欠》の怪盗アリエス・ギル
遠野 小路
【不服】の探偵語りて曰く、1
「ぞうを冷蔵庫にしまうにはどうしたらいいと思う?」
汎次元探偵及び探偵能力保有者の相互互助を図るアカデミカルメルギルドあしなが協栄会、通称探偵協会本部、その最奥にある部屋の大きな机の前に腰掛けた男は、肘をつき横を向いたままそう言った。
私はその前に直立し、その言葉の真意を問う。
「何を言ってるんですか」
「なぞなぞだよ。探偵なら好きだろう、謎が」
「謎が好きだから探偵をしているわけではありません。卑劣な犯罪者が纏う謎、それを明かさねば人々の平和と安寧が」
「あー、
眼の前の煙を払うように、肘を突いていないほうの腕で私の言葉を遮ると、男は大きくため息をついてみせた。
「探偵王ともあろう方が、探偵の本分を建前と言い切ってしまっては問題でしょう」
「問題ならば解いてしまえばいいだけさ。それで、ぞうを冷蔵庫にしまうにはどうしたらいい?」
あくまでも下らないなぞなぞに拘る探偵王の前で、私は左に一歩踏み出した。
酔っ払いの千鳥足のように、どこへ向かうでもなく、しかし確かな足取りで。
『
犯人を牽制し、真実に近づくための歩み。
まあ、この場に犯人はいないのだけれど。
私は歩みを止める。
そして、部屋に入って以来私の顔を一瞥すらせず、ぼんやりと壁に視線を向け続ける探偵王に向き直る。
「冷
「0点」
探偵王の心臓を穿けといわんばかりに勢いづけて指差し答えた私の解答を、探偵王は一顧だにせず足蹴にしてのけた。
「なんっ……」
「探偵が言葉遊びに堕してどうする。君がとんちで言い負かしたら犯罪者は降伏してくれるのか?」
大袈裟なため息が、ポーズだとわかっていても腹に立つ。
しかし、言っている事は間違っていないだけに、私はただ唇を噛んで黙って聞くしかない。
「ぞうを冷蔵庫にしまうには、冷蔵庫の蓋を空け、ぞうを入れて、蓋をしめればいいんだ」
「……それは、当たり前なのでは?」
「当たり前の事でも、規模が大きくなればそう考えられなくなるものだ」
君のようにね、と付け加えられ、私は二の句を継げなくなる。
「というわけで、君には【懐疑】の探偵のバックアップをしてもらう」
「【懐疑】……? かの七探偵、ソウカナ・クオリアのですか? 彼は単独行動を好むことで有名だ、それに、経歴も実績も遥かに及ばない私のバックアップなんて必要ないはずじゃ……」
「必要なのだよ、【不服】の探偵。この探偵王が必要だと言っているのだから」
探偵王はいつの間にか私の目を覗き込むように正面を向いていた。
「次もなぞなぞを出す。私を失望させないでくれ」
その視線を受け止めることがひどく恐ろしいことのように感じた私は、素早くお辞儀をして視線を切って、足早に探偵王の執務室を去った。
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